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教員メッセージ

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偏見に基づく判断ではなく、世界情勢や歴史を深く探究して問題の核心を複眼的に見る目を養ってほしい

歴史学と人類学の研究でオールド・カイロに通って29 年
私はこれまで、大きく分けて3 つの研究を行ってきました。1 つ目は、中東における前近代の社会史で、特にエジプトの人々の心性についてです。2 つ目は、低所得者層が住むオールド・カイロ地区における現代の若者の日常生活に関する研究です。1980 年代、歴史研究者でありながら人類学にも興味のあった私は、最も平均所得の低いオールド・カイロに住み込み、現地の人たちと寝食を共にしながらフィールドワークを行い、その後も29 年間毎年欠かさず訪れています。そして3 つ目は、2011 年のいわゆる「アラブの春」の中で起きたエジプト1 月25 日の革命についての研究です。主導者の中に友人もいたことから、自分もその場に立って、証言者にならなければいけないと考え、革命直後からカイロで暮らしました。今後は、欧米や中東の大学と、共同研究プロジェクトや国際シンポジウムを開催するなどして、研究成果をなお一層世界に向けて発信したいと考えています。

社会的要請に応えて新設された中東・イスラーム研究コース
明治以降、日本は中東諸国とそれなりに交流してきましたが、依然として、日本には中東やイスラームに関する知識が欠けていると感じます。その中で偏った情報によってそれらの国を判断するのは非常に危険です。中東の社会に問題がないわけではありませんが、現地の問題は日本で思われているものとはだいぶ違います。例えば中東の一部の国では女性の社会進出が一定程度進んでおり、国会議員の女性比率などが日本より高い国も複数あります。だからこそ、中東やムスリムの社会を知り、言葉を学び、歴史や文化を探り、現地と行き来して人々と接しながら理解を深めていくことが重要なのです。

そうした中で、文学部に2017 年度から「中東・イスラーム研究コース」が新設され、基礎外国語にアラビア語が加えられました。これは、本学が掲げる“Waseda Vision 150 ”の一環として実現されたものですが、その背景に社会的要請が強くあったことは間違いありません。ちなみに、中東というのは地域概念で、そこにはキリスト教徒やユダヤ教徒も存在します。一方、イスラームの研究はアフリカから東南アジア、中国などのムスリム、あるいは欧米や日本のムスリムまでを対象とします。したがって学びの内容は非常に幅広く、歴史や地域研究はもとより、人類学、社会学、美術、文学、考古学、建築、政治など多分野に及びます。こうした学びを通じて、イスラームへの偏見を減らし、ただ世界情勢の表層をなぞるだけでなく、問題の核心を複眼的に見る目を養ってほしいと考えています。グローバル化が進展する世界の中で、本格的な知識が必要とされる機会はますます大きくなるはずです。

Profile
大稔 哲也 Ohtoshi Tetsuya
文学部 中東・イスラーム研究コース 教授

※掲載情報は2016年度内の取材当時のものです。

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