身近な事象を起点に探究を深められるのが文化人類学の魅力

大学で文化人類学に出合い、インドの大学院に留学してからは、インドの地域社会における親族関係やジェンダーをテーマに長く調査を続けてきました。私たち人類学者はこのように、特定のフィールドを持ち、その土地で観察・経験した事象について、異なる文化圏や異なる時代の問題とも結び付けながら考察を深めます。一つのテーマを集中的に掘り下げて考えると同時に、より大きな視点から捉え直すことを繰り返すため、ものごとを多面的に見る力が自ずと鍛えられる学問だと実感します。
文化人類学の魅力の一つは、衣食住をはじめ、家族、老い、ジェンダー、さらにはトイレの問題といった、生活に直結する身近な関心から探究をスタートできる点です。フィールドワークに取り組む学生には、アドバイスとして、何か成果を得ようと焦る必要はなく、はじめのうちは空振りに終わってもいいのだと伝えています。自分の尺度や価値観に当てはめて安易に判断をせず、人々がその事象にどう向き合い、どのような言葉で語っているのかを丹念に観察する。そうした根気強さが大切になります。培った経験は、壁にぶつかったときに状況を俯瞰して考えられる力となり、生きやすさにもつながるはずです。
興味関心の赴くままに分野を超えて広く学びながら、突き詰めたいテーマを探っていけるのが文化構想学部の良さです。多様な人が集う早稲田で自問自答を重ねた先に、「これだ」と思えるものをぜひ見つけてください。