複数の原典史料をつきあわせ歴史事実を多角的に考察する
高校の歴史の教科書では基本的に、日本の歴史は日本史、中国の歴史は中国史など、現在の国家の区分ごとに出来事がまとめられています。しかし実際には国と国とは陸路や海路を通じて複雑に関わり合ってきた歴史があり、日本史を見ているだけでは分からない歴史事実が、東洋史を学ぶことで初めて理解できる場合もあります。私の専門であるチベット史も、中国やモンゴル、インドの影響を抜きに論じることはできません。
研究ではチベット語の史料に加えてモンゴル語や満洲語などの史料も幅広く用い、17世紀以後のチベット、モンゴル、中国において、人々がチベット仏教という共通の価値観に基づいて行動してきたことを明らかにしました。一つの歴史的事件も、見る人の立場によって記録のされ方は異なります。さまざまな言語で記された複数の原典史料をつきあわせ、史実を客観的に掘り下げることで、従来の定説を覆すような歴史像が浮かび上がってくることもあります。時代や地域が違えば、社会の価値観や文化も異なるという事実を肌で感じとれることも、高校までの暗記中心の歴史の授業とは全く違う、大学での歴史研究の面白さです。早稲田には歴史学を学べる学部・学科が複数ある中で、教育学部の地理歴史専修の特色は、地理学と歴史学の両方の学問領域を深められる点です。地理と歴史が密接に関係していることは、世界の四大文明がすべて大河のほとりに生まれたことからも分かりやすいでしょう。事象を過去との繋がりの中で捉え、未来のより良い選択を探る歴史学の視点や考え方は、この先、社会が大きく変貌しようとも価値を失うことなく活きるものだと思います。