利害・価値観の対立が先鋭化する社会で重要性を増す法的思考
私たちが共同生活をする上で、政府や地方自治体などの公権力は必要なものですが、一方で、公権力は常に乱用される危険性があります。私たち一人ひとりの自由や権利を守りながら公権力を機能させるには、どのようなルールが必要で、それはどう運用されるべきか。こうした問題を考えるのが、憲法をはじめとする公法学の分野です。
担当する憲法のゼミで最近取り上げた題材に、インターネット上での言葉による攻撃の問題があります。SNSの発展で情報の発信者やその中身が多様化するなか、憲法で保障された表現の自由との兼ね合いも含め、問題にどう対処するべきか議論しました。簡単に答えが出るものではなく、例えば攻撃の対象が一般人か、公権力を行使する政治家や公務員かでも結論は違ってくるでしょう。心の痛む事件があると「規制を強めるべき」と考えがちですが、果たしてそれで良いのか立ち止まって考えることが重要です。
異なる意見に丁寧に耳を傾け、利害や価値観が対立する双方が納得できる妥協点を、論拠を示しながら見つけていく。法学部で身につくこうした紛争解決力は、複雑化する社会で重要性を増しています。正解のない問題を多角的に議論する上で、多種多様な学生が集う早稲田は理想的な環境です。自らの「無知」を恥じることなく積極的に議論に参加し、自らの「無知」を自覚して専門分野にとどまらない幅広い知識の修得に努める。その繰り返しを通じて人間としての幅を広げていけることも、早稲田の法学部の魅力だと思います。