文学の学びは「答えのない問い」と向きあう力を鍛えてくれる
近現代の日本語による文学や文化現象の研究を専門としています。中でも近年は、戦争中の文学作品や従軍体験記、ルポルタージュなどに注目し研究を行っています。関心を持ったきっかけは、日中戦争・アジア太平洋戦争と約8年の長期にわたった戦時下で、「人々はその間ずっと戦争をどう捉えていたのだろう」と疑問を持ったことでした。当時の人々がどのような戦争や戦場のイメージと接していたのか、また、軍や政府がメディアや表現をどのように規制したのかを追いかけています。研究を通して見えてくるのは、厳しい検閲や言論統制がある中でも、現代に訴えかけてくるメッセージを持った表現が書かれてきたという事実です。私はそこに人間の表現のしたたかさとしなやかさを感じ、希望が湧いてくる思いがします。歴史に名を残すのは政治や経済の分野で偉業をなした人物が中心ですが、文学や映画にはその時代を生きた市井の具体的な個人も描かれています。他国との関係も含め、現在私たちが生きるこの社会は、過去からの積み重ねの上に成り立っています。文学・文化を通じて人々の生きた歴史をふり返ることは、未来の私たちや社会のあり方を考える糧にもなるはずです。
文学や文化は人の数だけ異なる読み方があり、学ぶ中で見えてくる「答え」も決して一つにはなりません。それこそが文学や文化の豊かさであり、多様なバックグラウンドを持った他者と議論しながら作品への理解を深めていく面白さを体感できるでしょう。学生と教員との距離も近く、互いに教え合い学び合う風土が根付いていることも、早稲田の教育学部ならではの学修環境の魅力だと思います。