世界各国から集った学生たちに教えながら学べる場。ゆくゆくはアジアにおける環境経済学研究の拠点に
矛盾しているように感じる「環境」と「経済」を結びつける
私の専門分野である「環境経済学」とは「環境政策を経済学的に評価する」という、比較的新しい学問領域です。例えば、ある環境政策によって得られる“ 健康被害の減少”などの利益が、それを実施するために生じるコストに見合うかどうかの費用対効果を検証するといったことを行います。また、石炭による発電に「環境税」が課されることによって電気代が上がれば、省エネの電化製品を買うなどの消費行動につながるといった市場を使った政策も考えます。「環境」と「経済」という、一見矛盾しているように感じられるものを組み合わせて環境に優しい経済的活動を誘発し、効率的な環境政策の推進を目指すことが環境経済学に求められる役割といえるでしょう。
2015 年に「パリ協定」が採択されたことからも分かるように、環境に対して関心を持っている国は日本だけではありません。アジアをはじめとした途上国から、環境問題を研究するために多くの外国人学生が早稲田に留学しています。彼らの話や研究テーマは非常に興味深いものばかりです。インドやブータンといった国々の農村では女性たちが薪を焚いて料理をするのですが、その煙による室内大気汚染が健康被害につながっています。さらには、それが女性の社会進出を妨げる要因となっている、といった問題認識は彼らと出会わなければ持ち得なかったものです。そうした気づきや発見をもたらしてくれる場としての価値が早稲田にはあります。
データを解析して仮説を検証し、状況に即した提案を導き出す
東日本大震災以来、身近な環境問題に取り組む学生が増えているように感じます。電柱が多い日本の風景を東京オリンピックに向けた問題と考える学生や、地方再生と環境問題を結びつけようとしている学生もいるなど、興味深いテーマばかりです。研究を進めるにあたっては実際に現地へ足を運び、役所の方や関係者の方々への取材を踏まえてデータを収集します。学生たちにはそれらのデータを解析した上で、仮説を検証し、状況に即した提案を導き出すことを求めています。データ分析と聞くと難解なものをイメージするかもしれませんが、計量経済学などの実証研究に関する授業が充実しているので、心配には及びません。
私自身の学生時代と卒業後の進路を振り返ると、迷いに迷い続けた後に30 歳を過ぎてようやく自らの方向性が固まりました。その原点には学生時代から社会のいろいろな事象に関心があり、熱帯雨林の破壊や地球温暖化問題の解決に貢献したいという情熱があったように思います。今はまだ将来が定まっていない人でも、情熱さえあれば未来を切り拓くことができるはずですよ。