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卒業生のキャリアストーリー

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いつか開発した車に乗りたい高度運転ライセンス取得も目指す

感覚を表現できない自分の未熟さを実感 栃木県上三川町かみのかわまちにある、日産自動車栃木プルービンググラウンド。広大な敷地いっぱいにテストコースが設けられ、高速周回路や石畳などさまざまな状態の路面が敷設されている。そこで菊きく田た愛あいさんは自動運転技術の開発チームの一員として、日々走行実験に臨んでいる。
大学時代、趣味でサーキットでのドリフト走行に打ち込んだ経験から「車は自分で動かすから楽しい」と思っていた菊田さんだが、2025年に今の部署に配属されて初めて自動運転の魅力に気付いた。
「駐車や高速走行のサポート機能は、疲れている人や運転に自信がない人の強い味方になってくれる。私自身、ハンドル操作をしなくても望む方向へ車が進む面白さ、便利さを実感してから、自動運転の機能を扱うのが楽しくなりました」
菊田さんのチームのミッションは、新たな機能を評価するための実験方法を考えて実行し、最も安全、かつ快適に走行できる性能を作り出すことだ。例えば先行車追従機能であれば、ブレーキのタイミングや強さの度合いを基準化し、評価することによって「安全で乗り手も不安を感じない性能を実現できる」といった結果を出す。 評価の際に大事なのが、実験車を運転した評価ドライバーの感覚を「官能評価」として数値化し、速度や距離などのデータと照合する作業だ。 「私が『乗り心地がよかった』と漠然と感じるだけの場面でも、評価ドライバーは時速や重力加速度(G)、車間距離などと照合し、『このシーンでは、何秒間で何Gを立ち上げるブレーキを作動させるのが適切だ』と、数値や言語で表現できる。その姿を見ると、自分はまだまだ未熟だと感じます」 性能比較のため他社の車に乗った時も、菊田さんが「乗り心地がフワフワしている」と感じるだけだったのに対し、評価ドライバーは「サスペンションの仕様がこうなっているから、乗り心地が柔らかく感じる」と、理由まで見抜いてしまうという。 「上司からも折に触れて『乗って感じて、物理で考えなさい』と言われます。指標や数値を使って自分の感覚を説明できるようになることが、今一番大きな課題です」  先輩たちのアドバイスに従い、運転する時は車のデータと自分が感じた感覚とを照らし合わせるよう心がけるようになった。経験を積むことが何より大事だと、機会があるごとにテストコースに出てハンドルも握る。その結果、少しずつ「感性をデータで表現できた」と思える瞬間も増えてきた。 「そんな時はやりがいも感じますが、『自分は仕事にどっぷりはまっているなあ』とも思います」 自動運転という最先端技術を扱う部署にいると、日々技術が進歩していることを肌身で感じるという。「同時に自分も、他社の技術も含めて情報をアップデートし、学び続けなければいけないと思っています」 右/業務デスクでは、実験車で取得したデータを解析するほか、机上検討、他部署とのオンライン会議なども行う。フロアで働く100人ほどのうち、女性は10人以下。女性エンジニアは菊田さんを含めて3人いる。左/実験車に搭載する自動運転技術などの新機能を評価ドライバーに説明する。 コロナ禍で将来を見失う人生を変える「光」に 菊田さんは車好きの両親の下に生まれ、家には常に普段使いから趣味の外車まで、5台もの車があった。「子どもの頃からかっこいい外車を見たり、排気音を聞いたりするのが好きでした」
高校卒業と同時に自動車免許を取り、運転の楽しさに目覚めた。
早稲田大学教育学部に進んでからは、外車のディーラーでアルバイトも始めた。しかし大学1年の終わりから、コロナ禍で授業がオンラインに。
「1人暮らしで帰省もままならなくなり『自分が何をしたいか』が分からなくなってしまったんです」
大学3年の時、目指す社会人像を明確にするため1年休学した。この時、将来の展望を照らし出す「光」となったのも自動車だった。
バイト仲間に誘われてサーキットへ行き、「面白そうだ」と自分でも車を走らせてみた。直線を時速100キロメートル超で疾走し、カーブでは強いGに耐えながらタイヤを横滑りさせる。恐怖よりも「アドレナリンがバンバン出る」興奮が上回り、夢中になった。バイト代をつぎ込んで中古の国産スポーツカーを購入し、ドリフト競技の大会にも参加した。
「バイト仲間やサーキット仲間など友人がたくさんできて、熱中できる競技にも出合えた。車が人生を変えてくれたと言っても過言ではありません」
そんな時、大学で行われた卒業生の日産社員との懇親会に出席した。30年ほど前に開発に携わった「R34 GT‒R」に今も乗っている先輩らと出会い「自分で開発した車に乗れるなんて、最高にかっこいい」と憧れた。リクルーターに「車と日産への情熱は誰にも負けないので、エンジニアになりたい」と訴えて採用された。
「文系の自分に開発職が務まるのかという不安もありましたが、それ以上に大好きな車の生みの親になりたいと思った。将来やりたいことを具体的に描くことができたんです」 走行前に実験車の足回りの仕様を評価ドライバーと確認。サスペンションに使われているばねの硬さや長さ、トー角(車を上から見た時の進行方向に対するタイヤの角度)、キャンバー角(車を正面から見た時の路面に対するタイヤの角度)などを確認する。 エンジニアと評価ドライバーが互いにフィードバックを交わし、実験車の仕様を決めていく。栃木ブルーピンググラウンドには「AS」ランクの評価ドライバーが5人ほど、「A1」ランクが50人ほどいる。菊田さんは現在「B2」ランクだ。 志願してテストコースへ異動
車への愛は人一倍
1年目は神奈川県厚木市の開発拠点に配属されたが、「自動車を走らせる機会の多い部署に行きたい」と、志願してテストコースのある栃木プルービンググラウンドに異動した。上司の田部井たべい孝聡たかとしさんは、菊田さんの強みをこうした「車への愛と情熱」だと評する。
「都会から離れた栃木を志願する若手はあまりいませんし、自動車競技に取り組む女性開発者もまれです。今は先輩の話を聞いて勉強する段階ですが、将来はどんどん自分の意見を言い、理系男性が多数を占める職場に新しい視点をもたらしてほしい」
2年目の菊田さんは、もちろんまだ関わった車が世に出たことはない。しかし「開発中の車がリリースされるのを想像すると楽しみで仕方ないし、自分が関わった車を街で見かけたら、友人たちに『私が開発したんだよ』と言いたくなるだろうと思います」と顔をほころばせる。
大学で会った大先輩のように、いつかは自分が開発した車を購入し、何十年も大事に乗るのが夢だ。また「女性初の高度運転ライセンスを持った開発エンジニア」という大きな目標もある。ライセンスのうち、上位の二つである「AS」と「A1」を得た女性はまだいないため、これらのランクを取りたいという。
「職場には開発者としても優秀で、高度運転ライセンスを持つ評価ドライバーもたくさんいます。自分で運転して感じたことを評価できれば、フィードバックの精度も上がると思うんです」
評価ドライバーは、高速走行だけでなく求められた加速度でブレーキをかける、一定の速度を保って車を走らせるといった再現性も求められる。このため通勤中、周囲に車がいない時などには一定の速度を保つ、車線の中央を走るなどして、運転技術の向上に努めている。
「サーキットでも直感に頼らず、ブレーキのタイミングやアクセル開度、ライン取りなどを理論的に考えながら『エンジニアとして』走るようになりました」
菊田さんにとって車とは、安心して過ごせる「ホーム」のようなものだという。
「一人で好きな音楽も楽しめれば恋人や友人とも過ごせる。多くの人が愛情を注げるからこそ『愛車』という言葉が生まれたんだと思います」
子どもの頃、日産のファミリーカーで、近くの湖のほとりにある売店に行き、梅ジュースを買ってもらった。ドライブ中に、好きな曲をかけてもらった。楽しい記憶の中には、常に車があった。
「仕事を通じて『車は人々の生活を豊かにする、とってもいいものですよ』と、多くの人に伝えたいんです」 右/走行する車両の助手席で計測を記録する。左/ドライブシミュレーターが自宅の一部屋を占領している。運転の練習ができるだけではなく、パーツを交換すると変化する性能もエンジニアとして勉強になるという。

Profile
菊田 愛 Kikuta Ai
自動車メーカーエンジニア
卒業後2年目
2024年 教育学部教育学科卒業

※掲載情報は2026年度内の取材当時のものです。

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