巡ってきたチャンスは、全て取り組みたい
時差12時間のチリ銅鉱山事業を精査
2023年4月に丸紅に入社し、「金属部門銅鉱山事業部」に所属する秋庭杏香さんは、1年のうちに6回ほど繁忙期を迎える。丸紅が株主として出資するチリの鉱山会社の予算や決算、長期計画を精査するタイミングだ。
「夜遅くまで仕事をする日が続くため、こうした時期には旅行や懇親会などの予定を入れないようにして、できるだけメリハリをつけて働くようにしています」
具体的な業務は、鉱山会社の統計データや原価データなどの「計数」を自社企業に取り込み、自社の予算として計数の見通しを立てることと、計画やお金の使い方が適正なものかどうかを精査すること。最近担当した仕事は、鉱山会社から提案されたホウルトラックと呼ばれるダンプカーのリース計画の精査で、ホウルトラックの台数を減らしても計画する事業は進められると判断。日本円にして数十億円規模のコストを削減し、経営の改善につなげた。
「チリと日本は使用する言語は異なりますが『数字』は共通の言語のようなもの。こちらから提案する時には、一定の技術面の理解に加えて数字上の根拠をしっかりと持ち、相手に自社の意見を伝えて議論を深めることが重要になります」
日本との時差が12時間あるチリの勤務時間帯は、日本とは真逆になる。このため現地の時間に合わせ、午前7時半に自宅でオンライン会議に出席してから出社したり、午後11時から打ち合わせが始まったりすることもしばしばある。
共に予算管理の業務を担当する先輩の見上柊人さんは「そんな時でも秋庭さんはとても元気で、こちらの説明に対し、会社のフロア中に響くほど大きな声で『あ、分かりました!』などと反応を返してくれるので、職場の皆に元気を与えていると思います」と話す。
物おじしない姿に「すごい子だな」
そんな秋庭さんは2024年4月から6月までの2カ月間、初めてチリに出張。ヘルメットをかぶって銅鉱山を訪れたり、鉱山会社の会議に出席して自分の意見を出したりした。
現地の会議での会話は基本的にチリの公用語であるスペイン語で進む。
「まだスペイン語は勉強中のため、会議内容のニュアンスを理解しきれずに歯がゆさを感じました。ですが、それでも自分が伝えられる限りの英語で、スペイン語の通訳を介しながらですが自分の選んだ言葉で話したつもりです」
「せっかく行くなら」と現地の民族ダンスを習ってチリ人スタッフと共に踊って親睦を深め、チリを離れる時にはプレゼントをもらうほど仲がよくなったという。
当時、チリの駐在員として、初出張の秋庭さんを受け入れた上司の中村航さんは、物おじせずにコミュニケーションを取ろうとする姿が印象的だったと振り返る。
「チリでは、当然ながら『黙っていても空気を読んでくれる』というカルチャーはなく、とにかく自分から積極的にアプローチしていかないといけない。言語ができる、できないにかかわらず、彼女はそれをしっかりやり抜いていました」
仕事量が多い時期にハードワークが必要となる場面もあるが「彼女はめげず、諦めず、そして逃げ出さずに力を発揮している。年上の自分から見ても『すごい子だな』と感じています」と話す。
銅鉱山事業部ではさまざまなキャリアの人財が活躍しているといい、本人の希望と経験次第でチリへの駐在も可能だ。入社3年目の秋庭さんもいつかは現場でより直接的に意見を出せるような商社パーソンになりたいという思いを抱いている。
チリの銅鉱山で採掘された銅鉱石。チリの銅生産量は世界の約24パーセントを占め、世界最大の生産国だ。
「悔しい思い」もした大学での研究
秋庭さんは2023年3月に早稲田大学創造理工学部を卒業した。卒業論文では、地下に電極を刺して電流を流し、地下の構造を調べる「物理探査」の技術開発に取り組み、研究室に泊まり込むほど研究に熱中した。
この技術が実用化し、あらかじめ地下に何があるかが分かれば、トンネル掘削工事の際に急に水が流入し、事故につながるような事態を回避できるはずだ。秋庭さんは在学中に実地で検査することを目指し、ある企業と共同研究をしたものの、なかなか期待するような成果が出ず、失敗もあった。
中でも思い出深いのは、研究室に置いてあった実験用の水槽の水を誤ってこぼし、床を水浸しにした時のこと。それぞれの研究で忙しいのに、研究室総出で水を拭いてくれたのだという。「研究がうまく進まずに悔しい思いをする時もありましたが、研究室の教授や仲間たちに助けられることばかりでした」と振り返る。
理工系では、学部卒業後に研究を継続して大学院に進学する学生が多い。秋庭さんは進学と就職、どちらの道に進むか半年間ほど悩み抜いたが、最終的に社会人として働き、周りの助けを借りながら一日も早く成果を出したいという思いに至った。
丸紅には、入社後の部署や業務を明示して募集する「Career Vision採用」という採用枠があり、大学での研究と関連があった銅鉱山事業部に応募して採用された。
時にハードワークが必要になる秋庭さんは「周りの人たちに助けられてばかりです」と話す。普段は個人で進める業務が多いが、隣で助言をくれる先輩や、上下関係にかかわらず率直な意見をぶつけることのできる上司、技術的な視点を提示してくれる他部署の人々に感謝しているという。
未来の子どもへ地球環境維持を
秋庭さんには「未来の子どもたちが美しい自然に感動できるように地球環境を維持したい」という思いがある。そのきっかけは、高校生の頃に船で片道25時間かけて訪ねた小笠原諸島で、かつて見たことがなかったほど青く透き通る海や野生のイルカが飛び跳ねる姿、光るキノコを目の当たりにしたこと。「このままずっと見ていたい」と感銘を受け、これからの世代にも美しい自然を残したいと感じた。
丸紅の入社式で新入社員代表としてあいさつした際にも、こうした自身の思いを熱く語り、「地球環境維持への強い情熱を持ち、環境・循環型ビジネスの実現にまい進していきたいと考えています」と話したという。
現在、仕事で扱っている銅は、AIデータセンターや風力発電のタービン、電気自動車分野などでの使用量の増加が見込まれ、持続可能な社会の構築には欠かせない金属だ。ただその一方で、急増する需要に対して長期的な供給量が不足するのではないかとも懸念されており、銅鉱石を採掘して銅成分を濃縮し、純度の高い銅として製錬する過程で大量の水資源やエネルギーを消費するという課題もある。
銅の安定供給のため、丸紅は2023年末、英国・アントファガスタ社と共にチリの銅鉱山の拡張プロジェクトに44億ドル(当時の為替レートで6500億円)を投じると決定。環境負荷を低減させるための取り組みとしては、2022年からこの鉱山の操業に用いる電力を100パーセント再生可能エネルギーに切り替えた。
「環境・循環型ビジネスの実現」を個人的な目標に掲げる秋庭さんとしても今後、鉱山で使う重機を二酸化炭素を出さない電動車にしたり、銅成分の濃縮過程で出る廃棄物を有効利用したりすることができないかなどと、持続可能な操業の在り方を自分なりに考えている。
10年後には「鉱山の基本的な知識や会計、財務などの知識を一通り身に付け、持続可能な社会につながる商材を扱い、自分がリーダーになって新規ビジネスの開拓にチャレンジしたい」という。
「巡ってきたチャンスは、全て取り組んでみたいんです」
そんな前向きな気持ちで、今日も仕事をしている。
会社の先輩らと夕ご飯を食べる秋庭さん。夜遅くまで仕事に励んだ後、一緒にラーメンを食べに行くこともあるといい、チームワークのよさがうかがわれる。
