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卒業生のキャリアストーリー

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「与えられた環境の中でどう輝くか」若手ディレクターの現在地

「存在意義は企画提案」との言葉に後押しされる 小学生の頃、時代劇の再放送を見てから登校するのが日課だった。
「勧善懲悪の安定感。子どもながらに善と悪の二項対立に引かれ、こういうものを作る裏側って面白そうだなと思っていました」
幼少期からドラマを見る側だけではなく、制作側にも関心を持っていた。「やるとなったらとことんやりたい性格です」と話す實渕碩也じつふちせきやさんは、就職活動でテレビ局のディレクター職を志望する。主な理由は、「番組を作る一連のプロセスに最も携わることができ、時間をかけて物事を掘り下げることができると思ったから」。そして、倍率が高いNHKディレクター職を勝ち取った。その理由をこう自己分析する。
「昔から、アイデアは多く出る方でした。面接官に『発想の引き出しが多い』と言われたことを覚えています。いろいろな分野の話題を振られた際、歴史、乗り物、プラモデルなど自分の知識や興味とひも付けて回答しました。おそらくその回答の幅が広かったのだと思います」
初任地は水戸放送局になった。同じ茨城県のつくば市出身だが、水戸市のなじみは薄かった。人が少ない地域局は業務の幅が広くリサーチから企画、取材、ロケ、編集の一連の仕事を一貫して担当するほか、雑務に至るまで先輩の動きを見て実地で学んでいく。日々の業務を回すだけで精いっぱいになるが、「ディレクターの存在意義は、企画提案をすることにある」との先輩ディレクターの助言どおり、「とりあえず書いてみよう」と考えた。それがEテレの『茨城・群馬・栃木の楽しい&おいしい魅力SP/天才てれびくん』(2025年6月23日放送)の企画だった。同3県のグルメに関する企画で、ギョーザやこんにゃくといった名物を提案する人が多い中で、変化球を投げた。
「茨城にダチョウの飼育数が日本最大級とされる農場があります。なので、ダチョウの卵で目玉焼きを作るのはどうか、と。そしてそれが採用されました。僕にとって初めてロケを共にするタレントは、子役の皆さんでした」
現地で料理し、その食レポをしてもらったが、「目玉焼き作りが大成功とはいかず、番組の尺や演出の都合もあり、結果的に試食の場面については大人のゲストがスタジオで行う内容で放送されました。あの時の僕は非常にポンコツディレクターで、不慣れな部分も多かったのですが、子役のタレントさんたちがロケをなんとかしてくれて。周りからは『あなた現場にいただけでしょ』って思われていただろうなって思います。子役たちからも『食レポを頑張ったのに!』と冗談交じりに文句を言われました」と苦笑いする。 一人で集中できるブースは局内のお気に入りスペースとなっていて、過去番組の分析・研究や、オンライン取材などの業務に使用する。「撮影前の入念な準備と取材は番組の完成度を大きく左右する、とても重要な工程です」 受け身の仕事をする自分にイライラしていた 当時は活躍する同期たちと比べて、「遅れを取ったんじゃないか」と焦燥感に見舞われた。でも今は、地域局で幅広い分野の仕事の経験を積めているという考えに変わっている。
今でこそ、心からそう思える。だが、そこに至るまで、何度も無力感を味わった。アイデアが枯渇することはないという實渕さんだが、自分が面白いと思った企画の共感を得られず、提案を書いても通らない日々が続いた。
「入局1年目はつらい時期でした。新人なので知らないことが多いのは当たり前ですが、日々の業務に追われ、受け身の仕事をしてしまっている自分にイライラしていました」
たとえ企画が通ったとしても、携わった番組がちゃんと視聴者に伝わっているか、世の中に貢献できているのか自信がなく、作って終わりの繰り返しにむなしさを感じていた。
「この仕事は本当に向いているのか、これからも続けていけるのか、不安と無力感が大きくなっていきました。実は、本気で転職活動をしたこともありました」
そして決断を迫られた時、「『待てよ』とふとわれに返って。目標にしていたドラマをまだ作っていないじゃないかと思いとどまったんです。当時は出口の見えないトンネルにいるような感じでした。でも踏みとどまって、番組作りに向き合っていこうと気持ちを切り替えたら、『楽しい』って思えたんです。そこからは自分の中で霧が晴れていきました」 番組企画の立案時には、同期にアドバイスを求めることもあるという。
職場では先輩や他部署との距離が近く、年次や部署の垣根を越えて一つの「チーム」として番組作りに取り組むことができている。「俯瞰ふかん的な目線で、的確なアドバイスをくれるので、私にとってかけがえのない存在です」
分からなかったら聞く
人と違うことを恐れない
2025年11月中旬の入局2年目の秋、外出先で1通のメールがスマートフォンに届いた。開封した時、声が漏れた。それは全国放送用に出した4本の企画全てが採用されたとの内々示だった。
地域局から全国放送番組の企画書を書く際、基本的にその地域の話題を題材にすることが応募条件になるという。
「どうしたらこの土地を生かした面白いドラマを作れるかをかなり考えました。その中で、水戸といったら徳川家だろうと思い、歴史を調べていく中で見つけた題材を基に提案しました」
それは、一番してみたかったドラマの企画だった。さらに、これまでとは違い、實渕さんが提案したままの内容で採択されたのだ。
「採用されても、議論が重ねられる中で、最終的には当初の構成とは大きく方針が変わることもあります。自分が書いたもので丸をもらえたことは大きな自信になりました」
實渕さんの上司で、水戸放送局コンテンツセンター副部長の今野泰いまのゆたかさんは「全国放送の企画が同時に4本通るのは、聞いたことがないですね」と話す。2025年9月に異動してきた今野さんは報道分野に明るい。これまで部下の企画採用率を上げるためにアドバイスをすることがあったが、今回のエンターテインメント要素が強い實渕さんの企画については「そのままの熱量を生かそう」と思い、何も手を加えずに出すことにした。
今野さんは、實渕さんのことを「天真らんまん」と表現する。
「大きな組織の中で、『先輩と同じように』といった体質は色濃く出がちです。でも彼の場合は、年次や経験値に左右されません。分からなかったら聞く。そして、人と違うことを恐れない」
實渕さんが持っている軸には、「クリエイターとしてよりよいものを作る」との強い思いがある。どこの組織にも規律や文化はある。その中には、形骸化したり、生産性を下げたりするものもあるだろう。
「受信料を頂いていて、公共の電波という極めて責任の重いものを扱う中で、少しでもよいものを作るのがディレクターの務めだと思っています」
採択された全国放送の番組4本の制作で2026年度はほぼ終わる見込みだ。また、いつ異動になるか分からないため、今の環境で動ける時間には限りがあるとの考えが脳裏をよぎる。
實渕さんは「多忙と多忙感は異なります。やりがいがあったら時間を忘れて没頭できますが、単純に忙しいだけでは心身共に疲弊するだけです」と話す。これまでに多忙感に無力感が加わったダブルパンチで底辺をさまよった。今は同じ忙しさでも、やりがいの比重が大きくなっている。
「何者でもない自分が、与えられた環境の中でどう輝くか。さまざまな番組に携われる門戸が広く開かれている組織の中にいるので、挑戦しないまま終わるのはもったいない」
入局時はドラマ志望だった。それが今、いい意味で迷い始めている。未知なる仕事に触れていく中で、新たに関心を持てる分野が見つかり始めている。 上/番組の編集で使用する「編集機」の操作中。地域局ではディレクターが自ら企画を編集することが多く、映像編集技術を磨くことができるという。
下/昼食は職場近くの飲食店に行くこともあるが、この日はお弁当だった。
「料理好きな母が作ってくれるお弁当です。私の大好物のめんたいこご飯とイチゴです!」

Profile
實渕 碩也 Jitsufuchi Sekiya
NHKディレクター
卒業後2年目
2024年 文学部文学科卒業

※掲載情報は2026年度内の取材当時のものです。

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