ミクロの世界を見つめて、「物質」の本質を探る山本研究室
さまざまな物質が持つ性質を原子レベルから研究します。たとえば「固い・やわらかい」「電気を通す・通さない」などの性質の原因を、それぞれの物質の原子を調べることで明らかにしようとしています。実験に使う試料をつくるところから始まって、その物質の電気的な特徴や光学的な特徴などを計測したり、分析したりします。院生になると、兵庫県にある「SPring-8(世界最高性能のX線を発生させる施設)」という大きな実験施設なども利用します。
Work
研究はまるで『ウォーリーをさがせ!』の世界
美しい輝きのルビーやサファイアといった宝石。実は、どちらも「酸化アルミニウム」が主な成分です。ところが、アルミニウムの原子の粒が、数百個のうちの1個だけ、クロムという物質の原子と入れ替わるとあの赤いルビーになり、クロムではなく、鉄やチタンが混じると青色が特徴のサファイアになるのだそう。
こんな興味深い話をしてくださったのがこの研究室の山本先生です。「たとえば、原子100万個のうちのたった1個が別の原子に変わるだけで、物質の性質が劇的に変化することがあるんです。ルビーとサファイアの例では色が変わるし、ほかに、固い物質がやわらかくなったり、磁石になったりすることもあります。物質の性質を変えてしまうそのたった1個の原子は何なのか、どこにあるのか、どんな状態になっているのか。それを実験によって明らかにしようとしています」。先生曰く、それは「『ウォーリーをさがせ!』みたい」なのだとか。研究をするときのワクワク感が伝わってきます。
取材にうかがった日は、前期の発表の日。4年生は現時点で興味を持っている分野についての論文を読み、その内容をみんなにわかりやすく紹介するのが課題です。ひとりめは「第一原理分子軌道法を用いたSiO2ゲート絶縁膜の絶縁破壊電解の推定法」、ふたりめは「RE系高温超伝導バルク材料の開発現状」と続きます。なんだか難しそうですが、どれも物質を原子レベルでとらえて、原子や分子がどんな状態のときに、その物質がどんな特徴を持つのかを分析しています。このように、論文を読んだり、発表したりする練習をしながら、自分の研究テーマを決めていくとのこと。研究が始まれば、研究室の設備を使って実験も繰り返し行います。
修士2年生の山田大介さんが自分のテーマに取り上げたのは、バイオセラミックスという物質。「バイオセラミックスは、人の骨の中に入れると、骨の再生を助ける性質があります。骨がいちばんよく再生するのは、原子がどういう状態のときなのか、実験を繰り返して探しています」。山本先生の言い方を借りれば、バイオセラミックスというステージで、“ウォーリー”にあたる何かを探しているのですね。
前期の発表の様子。4年生の場合、2週間前にテーマを決めて、1週間前には発表用のスライドを仕上げる。当日与えられる時間は10分。1秒でもオーバーしたらアウトだ。先生からもバシバシ指摘が入り、緊張の1日。
めちゃくちゃ小さいのに、途方もなくデカイ!?
お話を聞きながらふと身のまわりを見ただけでも、実に多種多様な物質があることに気づきます。つまり、研究対象にできる物質の種類には限りがないということ?
「そのとおりです。学生の研究テーマもさまざまで、学生自身が興味のあるものを選んでいます。でもね、どんな物質を選んでも、それらの原子はどれもすべて、あの周期表の中にあるんです」と先生の指差した先には元素の周期表。H、He、Li、Be......と元素記号が並ぶあの見慣れた周期表です。
そう......今使っているノートも、ペンも、今朝食べたものも、毎日身につけているものも、すべて、小さな粒まで戻っていけば、118種類ほどの元素の組み合わせからできている! そんなことに改めて感動していると、
「それだけじゃありません。宇宙の起源、地球の起源、生命の起源だって、突き詰めていくとすべて“物質”です」と山本先生。そして、ノーベル賞を受賞したハーバート・サイモン氏の言葉を紹介してくださいました。
― ― 「物質の本質」
「宇宙の起源」
「生命の本質」
「精神がいかに機能するか」
この4つの疑問を人類は追及し続けており、またこれからも追及し続けるであろう ― ―
この研究室の研究内容は、まさに、この「物質の本質」を原子という角度から探ること。人々が「知りたい」と思うことのど真ん中にあることなのです。
原子とは、物質をどんどん小さくしていった超微粒子です。その大きさはなんと、1cmの中に1億個を並べることができるほどのサイズ。そんな小さな粒の話から、なんと宇宙や命というスケールの大きな話にまで発展するなんて、すごいギャップ。いえ、ギャップではなくて、ひとつの道筋なのだと気づかされます。この研究室では、電子顕微鏡を使って初めて見えるような小さな小さな世界を見ながら、実はその向こうに広がる、人間にとって普遍的で壮大なテーマを見つめているのです。
研究室の装置の一部。試料を薄い膜状にする、1500℃を超える高温で焼く、真空にしてX線を当てるなどの実験をして物質の性質や変化を調べることができる。
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鏡の中の物理学
朝永 振一郎著(講談社学術文庫)
その一方で、世間でよく使われる科学技術という言葉について、「科学の先に技術、そしてその先に人類の幸福が必ずしもあるわけではない」ということも本書に書かれており、科学の本質について考えさせてくれます。