分子レベルのものづくり ――医農薬や材料を斬新な方法でつくる
分子は機能の最小単位であり無限の組み合わせが存在します。化学はそれら分子を自在に組み上げる「面白さ」を体験できるだけでなく、化学者の工夫により無限の「可能性」を宿らせることができます。分子の自在な組み立てを実現できるのは合成化学(有機化学)。この合成化学の発展に資する、ぼくたちの研究は以下の3つ。
「分子をつなぐ」「分子をぶっ壊す」「面白い分子をつくる」
これらの極めて基本的な命題に対して、独自の合成戦略と分子触媒で分子構築の匠を目指します。標的とする分子は医薬品や農薬、有機材料など多岐にわたります。
Work
3つの命題のなかの「分子をぶっ壊す」って?
インタビューをした応用化学科の山口研究室では、有機合成化学を専門として研究を行っています。つまり、分子(化合物)を混ぜ合わせて、新しい化合物をつくるという研究です。ただ混ぜ合わせるだけでは、もちろん分子はつながりません。いろいろな工夫をして混ぜ合わせなければいけないんですね。その工夫の1つが、有機反応を促進する「触媒」です。独自の触媒を分子レベルでつくりあげて、その触媒の力によって、新反応を開発することにも力をいれています。
一方で、3つの命題としてあげている「分子をつなぐ」「面白い分子をつくる」はなんとなくわかるんですが、「分子をぶっ壊す」ってなんなのでしょうか。山口先生に聞いてみました。
山口先生「分子をつくるのもぶっ壊すのもコインの裏と表と同じなのです。分子をつくるときには分子を壊さないとできない。その壊す方に力を入れた研究です。多くの人はつくるほうに力をいれているので、そういう意味ではユニークな研究ですね」。
いまいち哲学のようでいっていることはわかりませんが、とにかくユニークな反応や分子を開発していて、大学のホームページでもたくさん紹介されています。
ダンスするように反応する新反応「エステルダンス反応」(図左)。植物の生物時計の時間を変える分子「AMI-331」。名前の由来は開発者の学生「杏実」から(図中)。7人の小人分子。7つそれぞれに異なる性質をもたせることができるらしい(図右)
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研究室がピカピカ。新しい121号館に移動
山口研究室は2020年の6月から、理工キャンパスから戸山キャンパスの付近にある早稲田大学研究開発センター(121号館)へ移転したそうです。早稲田大学が研究力を高めるために新設した研究棟です。大隈講堂の近く、1階にタリーズが入っているおしゃれな建物で、山口研究室はその3階にあります。
研究室の中にはさまざまな最新鋭の装置が揃っており、加えてガラス器具などの実験器具などが所狭しと(広いですが)並んでいました。
昼夜問わず研究を行う学生が多いとのことですが、いるだけで活気を感じられる山口研究室。研究結果もさることながら、学生たちは何事も全力で行っているようで、その様子が研究室のホームページで垣間見えます。
コーヒーサーバーのような機械。分子の大きさによって異なる分子を分離できるそうです(写真左)。溶媒精製装置と呼ばれる装置。分子を溶かす溶媒もきれいで、水や空気を完全に除いたものを使うとのこと(写真右)。
黒と早稲田のえんじ色を基調とした研究室(写真左)。亀の甲「ベンゼン環」を模した鏡が素敵(写真中)。360℃見渡せる会議室も。2020年に建てられたばかりだそうでピカピカです(写真右)
実験結果で分子の構造を解析中。
実験ノートも山口研究室ではタブレットをつかって記録しているそうです。