細胞生物学 ~植物細胞の仕組みから地球温暖化防止までを研究しています~
自由に移動できる動物に対して,植物は根を下ろした場所から生涯動くことができません。そのような植物の細胞内を顕微鏡でのぞいてみると「原形質流動」と呼ばれる非常に活発な細胞内運動が観察できます。原形質流動は細胞骨格(アクチン)の上をモータータンパク質(ミオシン)が運動することにより発生し,様々な植物機能の制御に関与していることが示唆されています。
私たちの研究室では,細胞生物学・分子生物学・ライブイメージングなどの技術を駆使し,植物の細胞内輸送の仕組みを解明していきます。最終的には植物の成り立ちを,分子から個体レベルまで“統合的”に理解することを目指し研究を進めています。
研究室DATA
富永 基樹 准教授(教育学部理学科 生物学専修)
統合細胞生物学研究室(細胞生物学I,細胞生物学II,生物学実験IV)
所在地:先端生命医科学センター (TWIns)
Work
タンパク質を光らせるライブイメージング技術で植物細胞の機能を解明する
動物も植物も,直径が数十マイクロメートルほどの細胞から構成されています。生命の基本単位である細胞の機能を解明することで,生命の仕組みを解き明かしていこうとするのが細胞生物学です。細胞はとても小さいので肉眼で見ることができません。そのため細胞生物学では顕微鏡を用いた観察が研究の基本となります。
20年ぐらい前まで,通常の光学顕微鏡観察では細胞の形や核のような大きな細胞小器官しか観察できませんでした。近年,細胞内のタンパク質や細胞小器官を光らせて生きたまま観察できる革新的な技術が開発されました。タンパク質や細胞小器官に蛍光タンパク質を融合してレーザー顕微鏡で光らせて観察するライブイメージング技術です。蛍光タンパク質とは,ノーベル賞を受賞された下村先生が,オワンクラゲから発見したGFP(Green Fluorescent Protein)として有名な光るタンパク質です。GFPは青い光を当てると緑の蛍光を発します。GFPの遺伝子を見たいタンパク質の遺伝子と遺伝子工学的に融合させ,植物の細胞で発現させることでそれらを可視化することができます。これにより,細胞内の特定のタンパク質や細胞小器官の動き機能といったものを,生きたまま細胞内で解析することができるようになりました。また,緑に光るGFPと赤に光るRFPを使えば,2種類のタンパク質の相互作用を同時に見ることも可能です。
私たちの研究室では,植物の細胞内の運動や輸送にかかわるタンパク質の局在や運動,相互作用を高い時間・空間分解能で“見る”ことによって,植物が特異的に発達させた輸送システムを中心に細胞内の機能を明らかにしていこうとしています。
富永研究室では,高速型共焦点顕微鏡や全反射顕微鏡といった最新のレーザー顕微鏡を備え,植物細胞の機能解明に取り組んでいます。
原形質流動の高速化により植物を増産し地球温暖化を解決する
約250年前に始まった産業革命以降,人類が化石燃料(石炭や石油)を燃やすことで,大気中の二酸化炭素濃度が上昇しています。そして二酸化炭素がもつ温室効果により,地球の気温が上昇する「地球温暖化」が進んでいます。化石燃料は元々,太古の微生物や植物によって大気中の二酸化炭素が光合成によって固定され,バイオマス(生物由来の有機性資源)として数億年の歳月をかけて地中に埋没してできたものです。人類はそれらを掘り起こし,数百年の単位で燃やすことで大量の二酸化炭素を大気中に戻していることになります。地球温暖化は,気候システムのバランスに影響し,これまでにない極端な気候の変化が全地球的に起きています(気候変動)。
現在,地球温暖化対策の切り札として,植物からバイオディーゼル,バイオエタノール,バイオプラスチックなどを作り出す数々の技術開発が推進されています。今生きている植物から作られるバイオ燃料は,大気中の二酸化炭素が由来のため,燃焼しても大気中の二酸化炭素濃度に影響しないカーボンニュートラルなエネルギー源と考えられています。
一方で,世界の耕地面積にも限りがあるため,植物を燃料に利用する際には食糧作物との競合が懸念されています。限りある耕地を有効利用するためには,単位面積当たりの植物の増産も重要な課題です。私たちは,植物ミオシンの速度を人工的に改変するというこれまでにない技術を開発しました。生物界最速シャジクモミオシンXIのモータードメインを,モデル植物シロイヌナズナミオシンXIに融合した高速型キメラミオシンXIは,原形質流動を高速化すると共に,植物を大型化することが明らかとなりました。原形質流動はあらゆる植物で見られる基本現象です。すなわち,原形質流動の人工的高速化による植物のサイズ増強は,食物やバイオエネルギー増産に関連する様々な資源植物に応用可能だと考えられます。原形質流動の高速化を,将来環境問題解決に資する「基盤技術」と捉え研究開発を進めています。
【報道発表】
「植物の大きさを制御する新たな手法を発見 ~植物の原形質流動の本質的な役割を解明~」
2013年11月12日 科学技術振興機構(JST)/理化学研究所/千葉大学
「バイオディーゼル原料植物の成長促進に成功 ~遺伝子融合によるモーターたんぱく質の高速化で実験~」
2020年6月16日 科学技術振興機構(JST)/早稲田大学/千葉大学
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Essential細胞生物学
中村桂子/松原謙一 監訳(南江堂)