スポーツ報道の背景にどんなメッセージが? スポーツとメディアを分析するトンプソンゼミ
社会や時代によってスポーツのあり方は変わります。このゼミでは、社会がスポーツを作り上げる過程でのメディアの役割に注目しています。メディアはスポーツだけでなく、ジェンダー、国家、人種等についてのメッセージを含んだ情報を伝えます。たとえば日本代表についての報道から「日本」について、女性スポーツの報道から「女らしさ」について学ぶ。誰がどのようにスポーツを伝え、私たちにどのような影響をもたらしているか考えましょう。
Work
メディアが作る、スポーツと社会の関係
スポーツ科学部の先生たちの専門を見ると、「運動疫学」「スポーツ方法学」「バイオメカニクス」「コーチング」など、見るからに身体やスポーツに直結する分野に交じって、「経営学」「情報処理」などの文字が並びます。スポーツ科学とは、スポーツに関するあらゆる自然科学的、人文科学・社会科学的な考察を行う学問なのです。
今回取材したトンプソン先生も、専門は社会学。「メディア」を軸に、スポーツと社会の関係を考えます。3年生のゼミでは、数回にわたって勉強してきた「インタビュー調査」の発表が行われています。グループに分かれてゼミ生同士で各人のスポーツとのかかわりについて調査を行い、内容を分析してまとめます。今回は、スポーツを始めたきっかけ、そのスポーツに打ち込むことになったきっかけ、スポーツをやっていた当時の生活、そのスポーツを今も続けているかどうか、の4つのテーマで行われた調査ですが、単なるアンケートではなく、聞き取った内容から結論を導き出し研究につなげていく。自らインタビューを行うことで、メディアによる報道がどのようになされているかを理解する。こうして、卒論製作に向けての下地を作っていくのですね。
次回からは、『Sports in Society』という英語の文献を読むとのこと。これはスポーツ社会学の入門書で、ファンとして、選手としての立場を離れてさまざまな理論を身につけることが目的だそうです。役割分担は決めずに、その場で指名して内容を発表してもらいます、との予告にゼミ生のみなさんは気を引き締めている様子でした。
先生と助手の池本さんは、分析結果だけでなく、グループ内での役割分担や、プレゼンテーションソフトの使い方・効果的な表現方法についてまで丁寧に指導してくれます。ちなみに先生は日本語で授業されます!
ちなみに、トンプソンゼミの3年生は15人全員が積極的にスポーツに取り組んだ経験があるという調査結果でした。先生も高校までレスリングをやっていたそうです。身長が高いので有利だったとか。
客観的な目を持つことは財産になる
ゼミ生には、もともとスポーツメディアに興味を持っていた人が多いようですが、栗林純子さん(3年)のように、トンプソン先生の「コミュニケーション論」の授業で興味を持って初めて、スポーツメディアについて考えるようになったという人もいます。一方、先生もスポーツに親しんではきたものの、スポーツに特化した学問をしてきたわけではありません。スポーツ大好き!なゼミ生たちと、社会学が専門の先生との出会いはどんなものを生むのでしょう。
「みんなスポーツが好きで、スポーツに貢献したいという強い熱意がまずあります。その段階から一歩進んで、スポーツを研究対象とすることをこのゼミで学んでいくんですが、社会学的な考え方というのは新鮮に映るようですよ」(トンプソン先生)。
メディアはもはや空気のような存在で、そこから自分がどれだけ影響を受けているか、普段はなかなか気付きません。トンプソン先生は「まず、それに気づくこと。気づいたら今度は疑うこと」がスポーツとメディアを研究するにあたって一番大事なことだと語ります。女性のスポーツ報道は男性よりなぜ少ないのか? ある選手はもてはやされ、ある選手はバッシングを受けるのはなぜか? 「そんなのあたりまえ」とつい思ってしまう自分の中の先入観を冷静にとらえ、客観的に判断する力。そんなリテラシーが身につけられたら、人生に大きなプラスになることは間違いありません。自分の人生にはスポーツが欠かせない!という人は、自分のスポーツライフに「社会学的な客観性」の面を付け加えて、見識を広めてみませんか?
ゼミを行っていた「スポーツメディア情報分析室」の本棚には、スポーツ文化に関するおもしろそうな本がたくさん並んでいました。『相撲の宇宙論』が気になります。
Recommend
このゼミを目指すキミに先生おすすめの本
メディアスポーツ解体
森田浩之・著(NHKブックス)
スポーツ文化を学ぶ人のために
井上 俊・亀山佳明・編(世界思想社)
脱常識の社会学――社会の読み方入門――
ランダル・コリンズ・著/井上 俊、磯部卓三・訳(岩波書店)