法廷教室で繰り広げられる模擬裁判で紛争の背後にある「事実」に迫る高林ゼミ
発明を権利として保護する特許法。小説や楽曲等の文化的な表現を保護する著作権法。これらを中心に学び、アメリカの判例を扱いながら日米の知的財産権を比較する。具体的には「難解な法律をどのようにわかりやすく人に伝えていくのか」といった点に注力したグループごとの発表、知的財産権をテーマにした“模擬裁判”に取り組む。事件の概要から登場人物、判決まで全て自分たちでつくりあげることで、法律の理論だけでなく実務の分野も学習する。
研究室DATA
高林 龍 教授
知的財産権法 ― 高林ゼミ(法学部)
所在地:早稲田キャンパス8号館
Work
「あなたは会社で用なしなのでは?」「異議あり! 関係のない話です!」
8号館のとある教室に入ると...そこには裁判所がありました! そう、ここは「法廷教室」。高林ゼミの学生さんたちが、スーツや裁判官のガウンに身を包んでいます。今日の裁判は、ある開発者が、勤め先の会社が自分の発明品の特許出願をしてくれないので退職し、新しい会社でその発明品の出願をした。これに気づいた元の会社が転職先の会社を訴えた・・・という民事訴訟。「特許権」「二重譲渡」などの専門用語や、現在の状況などがスライドで説明され、裁判の開始です。
実際の裁判とまったく同じ手順で進む模擬裁判。まず「第一回口頭弁論」で訴状・答弁書の読み上げが行われてその日は終了。数日後という設定で「第二回口頭弁論」、また日を改めて「集中証拠調べ」と進んでいきます。第一回口頭弁論は、双方が書類を読むだけという印象でやや拍子抜けですが、裁判長の言葉に対して代理人が「しかるべく」と答えたのが印象的。独特な言葉遣いも多そうです。
「証拠調べ」の日は、契約書、営業秘密へのアクセス記録、Eメールなどの証拠が提出され、事実を明らかにすべく、原告側代理人弁護士や被告側代理人弁護士が証人たちに厳しく迫ります。はたして開発者の退職時に「特許を受ける権利」は返還されていたのか? 開発者は秘密保持契約違反から「背信的悪意者」にあたるのでは?
双方の主張を整理する「第四回口頭弁論」を経て、いよいよ「判決言い渡し」の日です。実は口頭弁論の際に裁判官から和解も提案されたのですが、被告側がこれを拒否。全面対決の構えです。見学者の間では、秘密保持契約の観点などから「原告(=開発者が元いた会社)の勝訴」という意見の方が優勢でしたが...。
判決は、「原告の請求は棄却」。開発者の転職先である特許出願をした会社の勝ち、というわけです。判決理由が裁判官によって読み上げられ、これにて裁判は終了! 見学者の意見とは逆の判決が出たわけですが、先生が総評の際に「はっきりいって今回のケースはどっちが勝ってもおかしくない。だから裁判官は和解を提案したんですね」と解説してくれます。なるほど、民事裁判は白黒つけるためというよりも、紛争を解決するための手段なのですね。
無事模擬裁判を終えた3年生たちはほっと一息。今回のシナリオは去年の3年生が考案したものだそうで、次は今回演じた学年がまた新しくシナリオを練り上げるのだそうです。
法廷教室には裁判官席、証人席などが本物と同じように設置されています。法廷と傍聴席を区切る木の柵や木戸も忠実に再現。
証拠を用意し、主張を述べ、尋問を行う代理人たち。書類を運ぶのは「廷吏」という役職の人です。
「今は閑職なのでは? 閑職って意味わかります?」と挑発しておいて、証人が激高すると「落ち着いてください」と上から目線の嫌味な相手方代理人弁護士。ふたりとも大熱演です。
裁判官のガウンも備品です!
ハードなゼミにくらいつく、志高きゼミ生たち
模擬裁判をゼミで行う狙いはなんでしょう?
「紛争の背後には事実があり、本当の事実の流れには合理性がある。模擬裁判として破綻しないシナリオを作ろうとすることで、机上の理論だけでない紛争の実態が見えてきます」と、元裁判官である高林先生。模擬裁判のシナリオは、夏の合宿で過去の事例を元に練りますが、裁判の堅い部分である書式担当と、キャラクター設定など肉付け担当に分かれて作り上げるのだとか。「裁判を傍聴したときに聞いた言葉を『これは使える』と脚本に反映させたんですよ」と、幹事長の守谷 喜紀さん(4年)が楽しそうに教えてくれます。破綻のないシナリオを作り、なおかつ2年生が楽しく見られるように演出するのは骨が折れる作業ですが、充実した時間になりそうです。
さらに高林ゼミは、通常のゼミの進行もハードなことで知られています。グループで教科書に沿ってプレゼンテーションを行うのは多くのゼミと同じなのですが、ひとりの持ち時間が約20分! 「教科書に書いてある内容をみんなに伝授するので責任重大。わかりやすくするにはどう表現したらいいかということも考えなくてはいけません」(郡山大輔さん・4年)。ゼミの時間は発表の時間なので、毎週学生だけでサブゼミを開いて勉強しています。ここでは、先輩から後輩へプレゼンのやり方が伝授されていくという伝統が生まれているのだそうです。
おまけに法学部には珍しく、卒論も必須。こう並べると大変さばかりが際立ちますが、がんばった分だけ得られるものも多いのです。卒業時に贈られる卒論文集と、模擬裁判の様子を収録したDVDが努力の証、ゼミ生の誇りです。
「知的財産」は、これからの日本の貴重な資源。みんなで力を合わせて作り上げる模擬裁判を通じて学んでみませんか?
「模擬裁判も学生主体でやるというところが魅力でこのゼミに入りました」と語る郡山大輔さん。「積極的な学生は早稲田へ!」
熱血開発者を演じきった鈴木智明さん(実際の民事訴訟は淡々としているものだそうですが...)。「早稲田には、この大学じゃないとできないことも多いので妥協せずやり抜いてください」
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