企業の成功と失敗。その差を生み出す原因を論理的に探りだす 坂野ゼミ
現代企業が直面する問題を多面的に解決していくのを目的にしています。実際に存在する企業を題材に、各社の背後に存在するさまざまな事象を分析することで、その成功・失敗の要因を見極めるとともに、問題解決のアプローチ方法や解決策を見出していきます。レポートを提出するのはもちろん、自分たちの考えをプレゼンテーションして伝える力の醸成にも取り組んでいます。
研究室DATA
坂野 友昭 教授(商学部 経営)
現代企業研究IB
所在地:早稲田キャンパス11号館
Work
学生の思考方法を徹底的に鍛え上げる
現在、日本には実に420万社以上の企業が存在していると言われています。その中にはかつて隆盛を極めたのに苦境に陥っている企業もあれば、ごく短い期間で誰もが知る超有名企業に成長したところもあります。企業が成功する、あるいは失敗をする。その差はどのようにして生まれるのでしょうか? 「時代がそうさせた」といった見方もありますが、運や偶然だけで企業の行く末が決まってしまうわけはありません。坂野ゼミでは経営的な観点を軸に多様な角度から企業を見つめながら、企業の成否の要因を浮き彫りにしようとしています。
3年生のゼミを例にとると、最初の数回で経営戦略の概念を坂野先生が解説した後、実在する特定の企業を取り上げて、学生同士のグループで分析をしていきます。それを前期と後期で2回、繰り返していくのが基本的なパターン。これまでは学生のなじみの深い身近な企業を取り上げることが多かったそうですが、取材に訪れた日は、こだわりの生鮮食品宅配で名を馳せている新進気鋭のA社に関する研究が行われていました。
そもそも「企業の分析」とは、どうやって行うのでしょうか。いろいろな分析方法が提唱されていますが、今回は「VRIO分析」という手法を用いています。企業が競争の中で優位となる資源を持っているかという観点から分析するので、「Value(価値)」「Rareness(希少性)」「Imitability(模倣可能性)」「Organization(組織)」といった尺度を用いていきます。発表の壇上に立った3年生の佐野さんと檜山さんのグループでは、A社を取り巻く“VRIO”を浮き彫りにしつつ、同業他社との比較をもとにした数値的なデータを提示しながら、A社の成長の要因を挙げていきました。
坂野先生は一通り発表を聞いた後、穏やかな口調ながらも鋭い指摘を入れ続けていきます。たとえば、発表した学生たちは「ROA(総資産利益率)」という経営を判断する数値的指標に関して間違った判断をしていました。先生は「この場合のROAは本当に高いのか?」「ROAが高いと何が起こるのか?」「ROAが高いのならば、この業界は魅力的といえるのだろうか?」と、ゼミ生が回答するたびに、ひとつひとつ段階を踏みながら核心に迫っていく質問を投げかけます。考えが及んでなかった部分への質問ですから、学生たちの回答は言葉足らずになってしまいがち。ですが、坂野先生はその一つひとつに真剣に耳を傾け、補足が必要であれば詳しい解説を入れてくれます。より身近に感じられるようにと、大手牛丼チェーン2社の事例を出して、店舗数が多いのと少ないとのでは、ROAという数字がどう変化していくかを解説するなど、いきなり正解を示さず、幅広く思索を行いながら結論にたどり着けるように導いていたのが印象的でした。
学生たちは生鮮食品の宅配企業が伸びている理由を、自分たちなりの視点から分析。契約農家を抱えていることが同業とは異なる点であることなどを指摘していました。
発表の途中でも随時みんなの質問や発言を促す坂野先生。
企業分析の考え方を応用して就活対策も
発表者の佐野さんは坂野先生の鋭い指摘に食らいつき、質問に答えていきます。
「自分の意見に対して坂野先生があらゆる角度から応えてくれるので、意見を交わしていくうちに知識を深く掘り下げていくことができるんです。厳しい突っ込みを受けることも多いですが、テーマを根本から理解するためには、そういう指摘が必要なのだと思っています」
企業分析の思考法を活用した就職活動対策などもゼミ内で行われています。業界・企業研究の手法などはもちろん、個人の競争力を高める方法なども指導するそうです。例えば、前述の「VRIO分析」を通して明らかになる企業の価値や希少性といった視点は、簡単にいえば企業の競争力を高めるための指標ですが、これを個人に当てはめれば就活という競争を勝ち抜くための方策がわかるといいます。
「就活のために中国語を話せる能力を身に付けるとしましょう。確かに個人の『VALUE』を高めるでしょうし、そういう人は少数派なので『RARE』なことでもある。しかしながら、中国人で日本語がしゃべれる人は圧倒的に多いので、日本人が中国語を身に付けなくても代替性があるということになりますので、ならば他の力を身に付けた方がいい、ということになるかもしれません」(坂野先生)
競争しないでもいい状態を作るのが競争戦略だといいますから、中国語を話せるライバルがいるのであれば、中国語力獲得はあまりプラス効果にはならない、という見方ができるのです。なるほど、分析するポイントによって評価が変わることもあるんですね。企業を分析する方法を学べば、社会で生きるための思考法が身に付けられる――そんな視点が坂野先生の厳しくも温かな指導から垣間見られました。
ゼミ生たちのチームワークは合宿などを通して高められています。 発表に関してもグループごとに行うので、互いの連携が欠かせません。
ゼミ終了後、研究について坂野先生に相談中。穏やかでフレンドリーな雰囲気でゼミ生に慕われているそうです。
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マイケル・A.ヒットほか・著(センゲージラーニング)