民法が関わる事例を、過去の判例や学説をもとに考察していく大場ゼミ

1、2年生で学んだ民法の基礎知識を用いながら、発表と議論を通じて民法をより深く理解し、さらに応用力をつけていくことが目標のゼミです。具体的には、2、3人で1つのグループを作り、民法に関わるテーマを自分たちで自由に設定。判例や学説をまとめた発表を行い、それについて教員を含めたゼミ生全員で討論します。また、4年生のほとんどが学びの集大成としてゼミ論文※を執筆しています。(※2018年度から単位化のため変更の可能性があります)
研究室DATA
大場 浩之 教授(法学部)
主専攻法学演習(民法) G
所在地:早稲田キャンパス8号館
Work
判例や学説に基づいて、事例ごとの法律の解釈と運用を考える
法律を学ぶというと、難しそうで堅苦しい印象を持つ人も多いのではないでしょうか。でも、そうではないと大場先生は話します。「このゼミでは民法を扱っていますが、民法の多くは一般の人が暮らしていく中で、何らかのトラブルに巻き込まれたときに役立つ法律を扱っているんですよ」。
たとえば、交通事故に遭ったとき、アルバイト先で労働条件が守られていないとき、知人がお金を返してくれないとき・・・。少し考えるだけでも、身近なところで民法の出番はたくさんあります。ただし、当てはまる法律を探して提示すれば終わりというわけではないのが難しいところ。一方の側に主張があるように、相手側にも当然言い分があるので、その両方について考える必要があるからです。
「もし消費者詐欺被害の話であれば、まずは消費者の立場から、詐欺をはたらいた相手を問いただしたり、契約の取消しを求めることを考えるでしょう。ただ、相手側にも言い分があるので、本当にこれを刑法上の詐欺被害として認めるべきなのか、あるいは民法上の契約の取消しで済ませたほうがいいのか、それとも許された広告の範囲で詐欺とまでは言えないとするのか、さまざまな観点から考えていきます」(大場先生)
そして、議論を重ねた上で「この事例であれば、こういう考え方で処理すべきで、そのときに当てはまるのはこの法律解釈だろう」という結論を導き出していきます。この、訴訟における一連の流れと同じことが、まさに大場ゼミで行われているのだそうです。
ちなみに、発表や議論の際には、これまでの裁判例や研究者による見解を調べておくことが必須だと言います。「判例も学説もひとつではありません。その中で、今回の場合はこの判例と同じだから同じ判断をしますというように、『理屈』と『基準』を明確にすることが法律学のいちばん重要なところです」。

ゼミは、毎回3・4年生合同で行います。1学年はそれぞれ10名ほど。学年によっても違うそうですが、法律家になろうと法科大学院に進む人、公務員を目指す人、民間企業に就職しようという人が、約3分の1ずつバランスよくいるのが大場ゼミの特徴のひとつです。

ゼミ合宿は、大場ゼミの夏の恒例行事。2017年は、二泊三日で千葉県の上総一宮に行き、ある事例について二手に分かれてディベートを行いました。合宿では、写真のようにスポーツで交流を深めるひとときも。
具体的な事例を研究することで、知識と応用力が鍛えられる
それでは、実際のゼミの様子をのぞいてみましょう。この日は、3年生の足立和樹さんと志村憲治さんが「留置権の対抗力」というテーマで発表を行いました。「留置権」とはあまり聞き慣れない言葉ですが、大場先生によると取り上げられるテーマは、今回のように専門性の高いものからもっと身近なものまで幅広いそうです。
「テーマ選びは完全に学生たちに任せていて、民法に多少でも関わっていればOKとしています。多いのは、相続関係や交通事故、詐欺などでしょうか。たとえば最近では、介護が必要な状態のお年寄りが外で事故を起こして加害者になったケースで、介護をしている家族はどのくらいの責任を負う必要があるのか、というテーマがありました」

さて、再び本日のテーマである「留置権の対抗力」に話を戻しましょう。少し省略して簡単に説明すると、次のような内容でした。「Bさんは、Aさんから土地建物を買い取ったのに代金の一部を支払わず、買った土地をCさんに転売。そこでCさんは、Aさんに土地建物を明け渡して欲しいと要求。一方のAさんは、代金が払われるまでは土地建物を占有する権利があると主張している」。そして、ここでAさんが主張しているのが、今回のテーマとなった留置権――留め置く権利、というものです。
発表は、関連する法律の条文紹介、今回の事例の概要と最高裁での判決の説明、そして今回の発表での論点と発表者の考えについて・・・という流れで進み、約30分で終了。そこからは、過去の判例と学説との関係についての疑問点を指摘したり、全員で議論をしていきました。といっても、ときには笑いも起こるなど雰囲気はとても和やかでした。
さすが法学部生!と感じたのは、専門用語満載の法律書の文章を誰もがスラスラと読みこなして、しっかり理解していたこと(民法のゼミ生なので当然と言えば当然ですが・・・)。2、3年勉強するだけでこれが読めるようになるんでしょうか?と聞いてみたところ、「法律は、語学の勉強に近い面があるかもしれません。海外からの直訳の言葉もあって単語は難しいですが、勉強しているうちに読み解く力が鍛えられますよ」(4年・郷さん)との心強い答えが返ってきました。
もちろん、ほんの3、4年前はゼミ生もみんな高校生でした。「数学や文学などとは違い、ほとんどの学生が大学に入って初めて学問として法律を学びます。そのため、スタートラインはみんな一緒で、入学段階で先を越されていることはありません。あとは、入学後にどれだけ本や判例を読んで学ぶかどうかだけですよ」(大場先生)
ところで、結局AさんはCさんに対して留置権を主張できるのでしょうか。Cさんには落ち度はないようですが・・・。過去の判例や学説も参考に検討した結果、「議論の余地はあるものの、現実問題としてはAさんはCさんに対して留置権を主張できる」と発表者二人は結論づけていました。
ただし、条件や事情が少し変われば、結論は変わる可能性があり、さらに時代の流れで社会が変われば同じ事例であっても結論が変わることもあるそうです。このように法律を学ぶということは、条文や判例を知ることだけではなく、決して簡単ではありません。しかし、どんなときにどの法律をどのように運用していけば納得のいく結論になるのか、それを議論を通じて考えていくことは、とても興味深く、取り組みがいがあるといえるでしょう。

この日の発表を担当した足立さん(左)と志村さん(右)。「どうして留置権をテーマに?」「第三者なのに、客観的ではなく主観的という言葉を使うのはなぜですか?」。先生やゼミ生から出てくるさまざまな質問に、ひとつひとつ真摯に答えていきます。

議論の途中で気になることがあれば、すかさずコンパクト版の六法全書で確認。多くのゼミ生が、机の上に六法全書を置いていました。民法や憲法、刑法など基本的な法令が収録されています。
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