新しいテクノロジーを活用して教育の問題解決を検討する森田研究室
テクノロジーだけでなく、社会も教育も日進月歩の勢いで変わっています。これから10年後の学習環境はどうなっているのでしょうか。どのようなテクノロジーを使うことになるでしょうか。このゼミでは、教育に関わる問題の解決や改善に取り組むとともに、これまでにない新しいマナビについて議論し、デザインしています。卒業研究では、さまざまな情報メディアやツール、仮想学習環境(Virtual Learning Environment)、拡張現実(Augmented Reality)などのテクノロジーを使ったアプリやコンテンツの開発を行ったり、学習支援に導入して有用性を明らかにしたりしています。
Work
教育現場における問題発見と解決、最新のテクノロジーを応用した学びのデザイン
「情報メディア教育論」のゼミでは、マルチメディア教材やバーチャルリアリティ(VR)、仮想現実(AR)といった新しいテクノロジーを活用して教育におけるさまざまな問題の解決や改善を考えています。ただし、テクノロジーやコンピュータを使うことだけがテーマではないと森田先生。「問題解決のアプローチは2つあって、新しいテクノロジーを使って教育の現場でできることを検討していこうというのは、そのひとつの『テクノロジー・プッシュ』という手法です」。
そして、もうひとつ「リクワイアメント・プル」というアプローチもあるそうです。「こちらは、教育の現場に実際に行ってみて何が問題になっているのかを探し出し、その問題を理解し分析した上で解決法を考えていくという手法です。「たとえば研究室では、先進的な取り組みをしているアメリカの学校や、逆に途上国のパプアニューギニアの学校などに出向いて、何が起きているのか、問題になっているのかを観察するといった活動もしています」。
森田研究室での研究テーマは、ゼミ生が自らの関心に基づいて自由に決めることができます。卒業論文では、新しいテクノロジーを活用した研究に取り組む人が多いそうです。では、研究室ではどんな研究が行われているのか、大学院の修士課程で学ぶ2人の先輩に自身の研究についてうかがいました。
修士1年の松野夢斗さんの卒業研究は、学園もののシミュレーションゲームの開発。人間科学部の1年生に向けて、科目登録のやり方や授業の受け方といった大学生活で必要なスキルを学べるシミュレーションゲームを一から作り上げました。もちろん、開発するだけではなく、実際に人間科学部の学生に試してもらって効果を検証、卒業論文にまとめています。
ゲームはストーリー仕立てで、選択肢によってストーリーが変わっていくのがポイント。楽しみながら、自然に大学で必要な知識やスキルを身に着けることができます。「サークルに入っていると、どんな科目を取ればいいのかといったことは先輩から教えてもらえますが、一人だとなかなかわかりません。でも、このソフトがあれば、ゲームの中で登場人物と会話をしながら自分一人で学べます」。
松野さんが開発したノベル型ゲーム教材の画面。これ以外にも、情報社会の問題をストーリーにしたゲーム学習教材や、ゲームの要素を取り入れたゲーミフィケーションによる学びのデザインなどを研究テーマにしている学生さんもいます。
研究室で開発のデジタル教材「タンジブル(触れる)学習システム」というもので、丸い球が付いた装置が月と地球を表現。タブレット上でこの装置を動かすとモニタ内の天体も動くので、それぞれの位置関係を実感できるそうです。現在、IoT(Internet of Things)の技術を使った新しいバージョンを開発しています。
仮想空間やシミュレーションゲームなど、研究テーマは幅広い
修士2年の田尻圭佑さんは、現在、仮想空間に入り込んで地球の自転と太陽の光との関係を学べる、デジタル教材の開発に取り組んでいます。教材の一部であるヘッドマウントディスプレイを着けてモニタをのぞかせてもらうと、なんとモニタの中に自分の手の動きと連動するバーチャルな手が出現! 手を動かすと、画面の中のバーチャルな手も同じように動きます。
「ヘッドマウントディスプレイにつけたリープモーションという装置が人の手と指の動きを認識して、仮想空間でその動きを再現しているんですよ」(田尻さん)。自分の手で地球を回せるってすごくおもしろい! あくまでデジタル教材ですが、思わずぐるぐると勢いよく回して遊んでしまいそうです。森田先生は、バーチャルな空間の中で何を学ぶのかが重要だと話します。「現実の環境でできることをやっても仕方ないので、絶対にできないことで、かつ教育的に意味があることは何かと考えて、研究室では空間認識能力の育成に注目しています」。
実は、太陽と地球、地球と月などの位置関係を理解できていない小中学生は(大学生や大人でも)少なくないそうです。「テストでは答えを覚えたり補助線を引いたりして正解を出せても、本質的にはわかっていません。一方、教員にとっては当たり前すぎて、なぜわからないかがわからない。ではどうやって教育すればいいかと考えたときの一つの方法が、仮想空間で実際に自分の手で地球を動かして、そのときに太陽や月がどう見えるのかを俯瞰的に見てもらうことなんですよ」(森田先生)。
田尻さんは今後、同じ仮想空間内に複数の人が入って共同学習をすることにもチャレンジしていきたいとのこと。「空間認識能力に差がある人たちが、同じ仮想空間内で同じ天体を見て一緒に話し合うことで、また新たな学習効果が期待できると考えています」。
森田研究室では、オンライン学習、タンジブル学習、ゲーム学習、情報メディア関連など、これまでにない新しいマナビをデザインしています。いずれの研究も、根底にあるのは「どのように教育の問題を解決するか」というテーマ。今、新しいテクノロジーによって、教育イノベーションが起ころうとしています。未来のマナビを、森田研究室で一緒にデザインしてみませんか?
ガムテープで取り付けられているのが、リープモーションという装置。装置には、手と指の動きを撮影するための赤外線カメラも搭載されています。これを見るだけでも、工夫を重ねて新しい教材を作っていることがわかります。
バーチャルな手で地球を回す(自転を再現する)と、それに合わせて太陽が東から上り、地上の風景への光の当たり方も変わっていきます。「地球が回るという視点を俯瞰的に与えてあげるのと、地上から見える風景を一緒に提示することで、より理解がしやすくなっています」(田尻さん)。
この教材は、「Unity」という3Dゲーム開発ソフトで作られています。ゲーム制作のほか、森田研究室で取り組んでいるような教育や医療、建築などの分野でも活用されるソフトです。
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