データ分析などを用いて消費者の行動を科学的に読み解く マーケティング・サイエンス研究指導(守口ゼミ)
データ分析などを活用した科学的なアプローチによって、マーケティングのさまざまな現象や特徴を解明、研究していく「マーケティング・サイエンス」がゼミのテーマです。主な活動内容としては、マーケティング・サイエンスの理論を体系的に学ぶと共に、ゼミ生が各自で題材を見つけて実証的な研究を行います。学部にも守口先生が担当する同じテーマのゼミがありますが、修士・博士後期課程ということで学部のゼミと比べてより高度で専門的な研究が求められます。
Work
留学生や社会人経験者など、多様な人材が集まっているゼミ
「マーケティング」については、なんとなくは知っているという人が多いのではないでしょうか。消費者のニーズを探り、ニーズに合った商品やサービスを企画したり、効果的な広告戦略を練ったり、適切な価格を設定したりといった、商品やサービスに関わる企業の一連の活動プロセスを指す言葉です。では、このゼミのテーマである「マーケティング・サイエンス」とは何でしょう?
「現代のマーケティングでは、顧客データや販売データといった多様なデータをどのように活用するのかが、企業の業績を左右する非常に重要な要素になっています」と守口剛先生。「そこで、データ分析などによる科学的な手法で、現代のマーケティングの諸問題にアプローチしようというのがマーケティング・サイエンスという研究領域です」。
最近では「ビッグデータ」という言葉をよく見聞きしますが、企業や組織で集めた大量のデータをマーケティングに役立てることは、実務上の大きな課題となっているのだとか。そして、ビジネスの現場での課題は学術上の課題にもなっていて、マーケティング・サイエンスに関心を持つ人は増えていることからゼミにもさまざまな人が集まってきているそうです。
「マーケティングの研究はアメリカが最も進んでいますが、アジアの中では日本がリードしているため、アジアを中心とした各国からの留学生も多いですね」。また、社会人の経験があるゼミ生が多いこともこのゼミの特徴です。仕事と研究を両立しているゼミ生もいます。現在、ゼミに所属するのは、修士課程が6名と博士後期課程4名の計10名(うち1名は聴講生)です。
海外からの留学生が多いこともこのゼミの特徴。「日本人の学生と共に、中国、台湾、韓国、ロシアから来た留学生が学んでいます」(守口先生)。なお、ゼミは日本語で行われています。
ゼミ生たちが研究で悩んでいるときには、的確かつ具体的なアドバイスをしてくれるという守口先生。「院生のことも一研究者として認めてくださっています」(博士2年・西井さん)、「研究者としてはもちろん、人としても素晴らしい方です」(修士2年・河股さん)。
「店内BGMの違いで買いたい商品が変わる?」も研究テーマに
取材にうかがった日は、修士課程と博士後期課程の合同ゼミが行われていて、博士2年生の二人が自身の研究の進捗状況を発表。そのうちの一人は下の「先輩からのメッセージ」にも登場している西井真祐子さんで、研究テーマは「聴覚刺激が触覚重視型商品に関する消費者行動に及ぼす影響」。例を挙げると、タオルのような「触感」が重視される商品を買う際、店内で流れる音楽(BGM)の違いが消費者の行動にどんな影響を及ぼすのかといったことを研究するそうです。
「たとえば、同じ『ド』の音も実は何層にも重なっていて、その層が変わると音色が変わるんです。この、音色が変わることで安心したり不安になったりするという研究が音響心理学であって、これをマーケティングに応用したらどうなるのかを考えました」(西井さん)。普段、仕事でイメージ戦略を担うこともある西井さんは、視覚など五感の刺激が人の心の変容につながることを実感として持っていたとのこと。それが、博士後期課程での研究テーマを考えるひとつのきっかけになったそうです。
BGMの音色が買い物に影響する、そしてそれが研究テーマになるとは想像していませんでした。マーケティング(マーケティング・サイエンス)って、本当に興味深い研究分野ですね、守口先生! ほかには、どんなテーマがありますか? 「西井さんは聴覚的な刺激に注目しましたが、最近ホットな感覚マーケティングのテーマとしてスマホと触覚に関するものがあります。たとえば、ネットの情報に触れるとき、パソコンとスマホでは、直接指で画面を操作するスマホのほうがより感覚的な意思決定となるという研究もありますよ」。
私たちも消費者の一人として、日々企業のマーケティング活動に接しているので、そこからいろいろな研究テーマが見つかりそうですね。とはいえ、守口先生によると研究の出発点であるテーマを探すことが実は最も難しいのだとか。肌感覚で「これだ!」と思ったことがすべて学術的にも意義があるテーマとは限らないためです。自分自身の関心、学術的な意義、社会や実務的見地からの意義、これらのそれぞれを満たすようなテーマを見つけることが良い研究につながるということです。 「自分が興味を持って、実務的にも研究する意義があり、まだ学術的にも明らかにされていないもの。そうしたテーマをどのように絞り込んでいくのかも、このゼミで学ぶべきことです」。そのためには、マーケティングの最新動向を知ると共に、過去の論文を読んで学術の世界でどんな研究が行われてきたかを学び、自分なりに整理して、実務的な課題と結びつける作業が必要だと守口先生。実際、ゼミ生の発表でも先行研究が詳細に調べられており、研究の基盤となっているのがよくかりました。
また、マーケティング・サイエンスでは、アンケートを取るなどしてデータを集めてそれを分析するという、実証的な研究が求められます。発表時には、誰にどんな設問でアンケートを取ればよいのかといった実証研究の進め方についても、かなり活発に議論がされていました。やはり、「おもしろい」だけでは学術的な研究はできません。それでも、守口先生のお話とゼミ生の発表を通して、ネット通販、SNSなどによる口コミ、視覚や聴覚による感覚マーケティングなど、次々に新しい事象や戦略、研究が出てくるマーケティングの分野を研究することは大変エキサイティングだと感じました。
パワーポイントで作成した資料をスライド表示しながら、自身の研究テーマに関わる先行研究の状況や、現在の課題、今後の研究の進め方などについて説明する西井さん(博士2年)。ゼミでは、このように毎回学生が発表を行います。
発表が終わると、まず守口先生がいくつか質問を投げかけた後、発表内容を踏まえて全員でディスカッション。発表者を囲むようにコの字型に座っているので、お互いの顔を見ながら真剣なやり取りが続きます。
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古川一郎・守口剛・阿部誠/著(有斐閣アルマ)