検察側と弁護側に分かれて行うディベートを通じて生きた刑法を学ぶ松澤ゼミ

刑法の事例問題について、被告人を有罪と主張する検察側と無罪と主張する弁護側に分かれて、ディベート形式で議論しています。4年生、3年生の混成チームで、上級生が下級生を指導しながら、議論を進めます。ほかの学生は、質問したり、議論の優劣を判定したりします。ゼミの運営は学生が主体なので、自由に発言できる雰囲気があるのが特徴です。
Work
裁判は理論の積み重ね
「テレビドラマ『HERO』を見て検察官に憧れて」。法学部を、そして刑法のゼミを志望した最初のきっかけについて尋ねると、4年生の児玉尚久さんはこう答えてくれました。容疑者を取り調べ、起訴し、法廷で証拠を挙げ、求刑する正義の人、検察官。熱い心と冷静な頭脳を併せ持つイメージで、かっこいいですよね。「でも実際学んでみると、意外に絶対的な正義ではないな、と(笑)」。もちろんドラマと現実とは違いますが...、ゼミで行われているディベートを見てみると、検察官や弁護人のことがわかるでしょうか。
今日の事例は「交際相手の子を叩いたら意識を失った。一晩放置後死亡を確認。ただし、すぐに治療していても救命はできなかったと認定された。この場合の罪責は?」というものと、「知人の車を4時間ほど無断で借りていたことが偶然発覚したが、知人は車がないことに気づいていなかった。この場合の罪責は?」というもの。前者の事例では、「倒れてから死亡に気づくまでの7時間の、どの時点で殺意が?」など、後者では「4時間ではなく1年間だったら?」「車ではなく自転車だったら?消しゴムだったら?」などと、事実の明確化の難しさ、線引きの難しさに頭を抱えそうな質問が飛び出します。
ディベートを見学していると、裁判とは、被告人を追い詰めて降伏させるものではなくて、弁護・検察両者が理論的な主張を戦わせる中で、被告人の行為をひとつひとつ刑法的に評価して、それが犯罪と評価できるのか否かを明らかにしていく過程であることがわかります。「論理的に積み重ねていくところは、数学の証明問題に似てると思うぐらいです」という児玉さんの言葉に納得。
松澤先生によると、「学説や理論を深めていくことがディベートの目的」とのこと。判例を読むだけでは「こういう場合はこう判断するんだな」と簡単に納得しそうですが、複雑な事件について、厳しい質問を受けながら裁判で争うという立場に立つと、背景のさまざまなことが見えてくるのです。

ホワイトボードに検察側と弁護側の主張が整理されていきます。

児玉さんは今回は弁護チームとして活躍しました。(写真奥)
学年の壁、先生と学生の間の壁もない風通しのよいゼミ
ディベートの事例は、過去の判例からゼミ生が自分たちで選び、モデルにして問題を作ります(現在進行形の話題の事件を取り上げることも!)。5人1組のチームとなり、時間を作って知識を共有し、「こういうふうに戦おう」と戦術を練るのだとか。
詳細は問題用に変えているとはいえ、すでにある判例を元にしているのでどちらのチームが勝つかは問題ではありません。ですが、やはり意見がぶつかり合ってディベートは盛り上がります。検察チームの発表者が「僕が考えてる間に向こうを攻撃しといて!」とほかのメンバーに援護射撃を要請したり、弁護チームが「あー、今の(発言)失敗した!」と悔しがったり、生き生きとした発言が飛び交います。
幹事長の佐藤健一さん(4年)によると、明るくてアットホームな雰囲気で、学年間はもちろん、先生と学生との関係もフラットだという松澤ゼミ。大学では先生が教える立場だがそれは学問の場だけでのこと、人間としてはどちらが上というわけではないというのが先生の持論です。なので、学生は物おじせずに、考えたことをどんどん発言できるという風土が生まれたよう。そして、「ディベートで学生がおかしいことを言ってもとりあえず聞きます」という松澤先生。「判例って変わるものなんです。昔は常識だったことで、今から考えるとおかしいこともたくさんある。だから今おかしい意見でも、聞いておく価値はあるんですよ」。松澤ゼミは、権威的なものに惑わされず自由に発想する力が養えるゼミなのです。

ディベートの場にはTA(ティーチングアシスタント)も参加し、ゼミ生をサポート。疑問点を追及すべく静かに相談するゼミ生とTAの姿を見て、どんな質問が飛び出すのかと検察チーム、弁護チーム双方に緊張が走ります。

先生も、教室の後ろで見守るだけではありません。常に教室中を歩き回ってヒントや意見を投げかけてくれます。今回追い詰められぎみの検察チームには、はたしてどんなアドバイスが!?
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