神話の世界を知ると、日本と日本人のルーツが見えてくる 松本ゼミ
『古事記』や『日本書紀』、各地の「風土記」、『万葉集』など、日本の上代文学(主に奈良時代までの古代文学)を研究するゼミです。歴史学や民俗学、文化人類学といったさまざまな分野の知識を使いながら、上代文学に書かれた日本の伝説や神話を読み解いていきます。その中から、学生が自らの研究テーマを見つけ出し、研究の成果を卒業論文にまとめることが最終目標です。
研究室DATA
松本 直樹 教授
「特殊演習A 上代文学研究指導」(教育学部 国語国文学科)
所在地:早稲田キャンパス16号館
Work
ギリシャ神話にも、ヤマタノオロチ伝説があるってホントですか?
日本史や文学史の授業では必ず登場する『古事記』や『日本書紀』。とはいえ、ちゃんと読んだことがあるかと言われるとなかなか...という人が多いのでは? でも、松本先生の話をちょっと聞くだけで、俄然、上代文学に興味が湧いてきますよ。たとえば、「『古事記』にも『日本書紀』にも、スサノオノミコトが、8つの頭と8つの尾を持つヤマタノオロチを退治して、生贄にされるところだったクシナダヒメを救う、という神話が出てきます。一方、ギリシャ神話にも、勇者ペルセウスが海の怪物を倒してアンドロメダ王女を救うという似た話があり、しかも世界のあちこちにこうした『ペルセウス・アンドロメダ型神話』が存在しているんですよ」。なんと、ヤマタノオロチ伝説がそんな世界的な神話だったとは!?
また、「毎年のようにやってきて暴れるヤマタノオロチは、決まった時期に氾濫する川を神格化したもの。生贄を捧げたり英雄がそれを鎮めたりという神話には、古代人の自然を畏れる姿勢や、逆にそれを克服していこうという考えが表れています」。なるほど、『古事記』を読むことで、昔の日本人が何を考えていたのかが見えてくるんですね。
上代文学の中でも、特に「神話」を中心に研究を続けている松本先生。実は『古事記』や『日本書紀』の神話は、各地で伝承されたきた神話を切り張りした、言ってみれば“偽物”の神話なのだとか。「大和朝廷が日本をひとつにまとめる際に、権力に説得力を持たせようとあちこちの神話を集めて、これが国家の神話ですってやったんです」。となると、『日本書紀』などに書かれた神話の大もとはどこにあるのか? そんなことを探っていくのも、このゼミの研究テーマのひとつだということです。
ところで、「古文」というと「難しい、読むのが大変」と思っている人が多そうですが、「難しくはありませんよ」と松本先生はキッパリ。え、本当ですか? 「上代文学の中でも、『古事記』はとても読みやすいんです。原文はすべて漢字ですが(右写真参照)、読み下し文ならとっつきやすい。文章も簡潔で、たとえば『源氏物語』などよりずっとわかりやすいですよ」。
『古事記』の原文。すべて漢字で書かれていますが、純粋な漢文ではなく日本語に漢字の音を当てた「万葉仮名」も使われているのだそう。「われ、ここにきて、わがみこころすがすがし」と、一節を先生がスラスラ読んでくれました。
着眼点さえしっかりしていれば、研究テーマの自由度は大きい
松本ゼミでは、4年の前期がスタートするとすぐに卒論のテーマ選びに取り掛かります。ゼミ生全員、3年生のときにも松本先生のゼミで上代文学に関する基本知識はすでに修得済み。また、3年の後期にも自分でテーマを決めてある程度の分量のレポートを書いていて、そのときの研究テーマが卒論のベースになる人が多いのだとか。研究テーマを何にするかは、学生の自主性に完全に任せているそう。「それが、ウチの大学の国文学科での伝統です。教員が、キミこれやりなさい、なんて言ったりはしませんよ」。でもどうしてもテーマが見つからずに困ったら、松本先生に相談しましょう。上代文学に関しては図書館以上とも噂される研究室の本棚を一緒に見ながら、学生の興味がありそうなテーマを見つける手助けをしてくれるので、心配は無用です。
夏休み前のゼミでは、ゼミ生が研究の進み具合を数人ずつ、数回に分けて中間報告。構成や課題、参考文献などを発表していきます。それをみんなで静かに聞いている...と思いきや、先生やゼミ生からの質問、疑問、感想が間にしばしば。たとえば、『古事記の死生観を探る』をテーマに、神や天皇の死がどう描かれているか、そこにはどんな意味があるのかを探ろうとしている片山秀一さんには、「まず『死ぬ』の定義をはっきりさせみては」とゼミ生が指摘します。
また松本先生は「まとめ方が難しいかもしれない」と心配しつつも、「『神避(かみさり)』の解釈に目をつけたのがいいし、テーマも具体的でおもしろい!」と評価。もちろん、卒論は自分で書くものですが、先生からのアドバイスやゼミでのやり取りが内容を充実させていく過程では欠かせないそうです。ゼミは、ワイワイガヤガヤという感じではないのものの、いつも少々テンションが高め(ゼミ生談)の松本先生とゼミ生全員で、真摯に研究に向き合う姿が伝わってきました。この日はほかに、ヤマタノオロチ伝説のルーツに着目した『ヤマタノオロチ退治神話と<出雲>という地』(竹田楓さん)や、『日本書紀』での14代仲哀天皇とその妻・神功皇后の描かれ方の違いを考察する『神功皇后伝説の意義について』(堀越瑠奈さん)など、5人がバラエティに富んだ研究テーマについて発表を行いました。
ちなみに、今年度はいないそうですが、現代のアニメ作品と神話を結び付けるような研究テーマを選ぶ人もいるとのこと。「『千と千尋の神隠し』に見る神と、古代日本人にとっての神の違いとかね」(松本先生)。実際、アンパンマンと日本神話の関連を論じている学者もいるとのこと。きちんとした視点があれば、そんなアニメと上代文学を絡めたテーマでも認められるそうですよ。
2012年は、『古事記』が作られてから1300年という節目の年。他の上代文学作品も、誕生してからそれぞれ1000年以上の時が流れています。その間、多くの学者たちが興味を持ち、研究を続けてきたのは、やはりそこに日本と日本人のルーツがあるからなのかもしれませんね。
この日は、ゼミ生が研究の進み具合と今後の展開について発表。ゼミ生同士で質疑応答があるほか、松本先生からは「こんな資料もあたってみたらどうかな?」などと視野を広げるアドバイスが。
研究室の本棚には、上代文学関連の文献がぎっしりでまるで図書館! 「図書館より参考になることも多い」と、ゼミ生も頻繁に利用しているそうです。
Recommend
このゼミを目指すキミに先生おすすめの本
ぼおるぺん古事記(一)
こうの 史代著(平凡社)
はじめて学ぶ日本文学史
榎本 隆司編著(ミネルヴァ書房)