自分の目で見て足で歩いて、自然と人との関わりを知る 久保ゼミ
「人間の生活に関わる自然環境」を大テーマとして、地理学の中でも特に自然地理学について研究するゼミです。3年生では、自然地理学に関する文献を読み、地図の分析法や各種データの取得方法など研究に必要な基本知識を習得していきます。また、3年・4年を通じてゼミで重視しているのがフィールドワーク(巡検とも言います)。研究対象や関連した場所に出かけて、直接観察したり関係者に話を聞いたりする調査法で、対象を深く知って研究を進めていくことが可能になります。
ゼミDATA
久保 純子 教授(教育学部 社会科 地理歴史専修)
地理学演習IA、地理学演習IIA
所在地:早稲田キャンパス16号館
(前年度のページ)
Work
自然環境とそこに住む人間との関わりを観察するのが自然地理学
「地理」はもちろん知っているけれど「自然地理学」と言われてもピンと来ない、という高校生もいるのでは。久保純子先生、「自然地理学」ってなんですか? 「地理学の中でも、主に地形や気候、土壌などの自然環境を研究するのが自然地理学です。地理学には、ほかに経済地理学や農村地理学、都市地理学といった人間の活動から地理を考える人文地理学や、 ある地域の特色を自然・人文両方から研究する地誌学という分野もありますよ」。
早稲田大学の教育学部には、地理学を扱うゼミが複数ありますが、自然地理学のゼミは久保先生のところだけなのだとか。 「自然地理学なので、なるべく自然環境を自分の目で見てもらいたいという思いがあります。そこでゼミでは、できるだけフィールドワークの機会を設けるようにしています」。
ただし、誤解してはいけないのは、「自然地理学」と言ってもそこに人間が介在しないわけではないということ。「時には、何万年も前の先史時代の地層を見に行ったりもしますが、基本的には自然環境とそこで暮らす人たちの関わりや、人間が自然にどのような働きかけをしてきたのかを観察することが多いですね」。
では、具体的にどんなところへ行って、何をするのでしょうか。久保ゼミでは年に数回のフィールドワークに出かけます。例年4月には「新人歓迎フィールドワーク」を実施。2014年は神奈川県の江の島で、海岸の地形をじっくり観察したそうです。また6月には、一泊二日で神奈川県にある相模川をさかのぼって、川の始まりを訪ねるというフィールドワークを行いました。
「川沿いをどんどん上って行ったのですが、あいにくの雨の中、途中には、けもの道のような場所もあってなかなか大変でした(笑)」(久保先生)。でも、ゼミ生にはとても好評だったようです。「フィールドワークはいつも楽しいんですが、このときは、上流のほうにまだ雪が残っているのを見たり、川沿いに25メートル以上の露頭(地層が露出している場所)が広がっていたりと、本当に面白かったです」(4年・Oさん)。
ちなみに、相模川の始まりは富士山にもほど近い山中湖だそうです。山の湧水が川になり、やがて海に流れ込むことを頭では知っていても、実際に湧水までさかのぼって見に行く機会はそうそうないでしょう。それを実際にやってみるとは、久保ゼミのフィールドワーク、恐るべし!
帝釈天のすぐ近くにある 柴又八幡神社で発見された、 6世紀後半の古墳の石室を見学中。 残念ながら非公開のため、石室が置かれている場所を外から覗いています。
江戸川の堤防に立ち、対岸の千葉・松戸側を眺めるゼミ生たち。実際に自分の目で川の形などを確認することで、地図だけではわからないことに気づける場合も多いとか。
「答えは自然の中にある」から、フィールドワークは大切!
7月下旬、前期最後の活動もフィールドワークでした。この日の主な目的は東京の東側、「東京低地」と呼ばれる下町の地形や江戸川などの河川の観察です。実は、前述の相模川同様、久保ゼミのフィールドワークでは河川を見に行く機会が多いのだとか。
「川は、洪水が起きたり、飲料水や農業・工業用水として利用されたり、人と自然との関わりを観察しやすいので、よく出かけますね。自由参加ですが、昨年はカンボジアのメコン川にも行きました。今年もまた行く予定です」(久保先生)
さて、東京の下町を行く一同は、まず「葛飾区郷土と天文の博物館」で東京低地の成り立ちなどを学び、その後「寅さん」で知られる葛飾・柴又に移動。柴又八幡や帝釈天などを見学してから、江戸川の土手へと向かいました。映画のロケ地にもなった帝釈天の参道では、甘味処や土産物屋の賑やかな呼び込みにも、みんな興味津々!
久保ゼミのフィールドワークでは、このように観光スポットに立ち寄ることもしばしば。一見、ちょっとした遠足のようでもありますが、重要なポイントでは先生がその都度質問や解説を挟んで場の空気を引き締めます。たとえば、江戸川の堤防では「江戸川は、中川に比べてかなり堤防が高いけれど、なぜだと思う?」という質問が投げかけられていました(答えは、利根川が増水したときに、利根川の水が大量に放水されるため)。
そして、フィールドワークの後は毎回必ずレポートを作成し、観察した内容を改めて振り返ります。教室での授業に加えて、現地での観察・調査とレポート提出を繰り返すことで、問題意識が培われると同時に研究手法のスキルも磨かれ、最終的に卒業論文につながっていくのだそうです。「卒論では、自分でテーマを見つけて、フィールドに出かけて、データも自分で取ってきてもらいます。しかも自然地理学の場合、答えはすでに自然の中にある。だからこそ、フィールドワークはとても重要なんです」(久保先生)。
今はインターネットで詳細な写真や地図も見られるし、どんなデータも探せば入手できるかもしれません。でも、そうではなく、その場所に足を運んで、自分でデータを作るところから始める。それが自然地理学の醍醐味と言えるのかもしれませんね。
葛飾区と千葉県松戸市の間を行き来する「矢切の渡し」という渡し船を見るため、江戸川の川べりへ向かいます。この日の最高気温は33度超。みんな少々バテ気味ですが、久保先生は余裕の表情。「ゼミで最もタフなのは、間違いなく先生です!」(ゼミ生一同)。
郷土博物館や柴又の帝釈天、スーパー堤防などを巡ったこの日のフィールドワークは、船引講師率いる「地理1A」と合同で実施。江戸川を望む堤防の上で、みんなで記念写真!
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