文献を批判せよ。 絶対的な「正解」のない、国際政治経済を学ぶ
世界各地で見られる民族紛争はなぜ起こるのか。紛争勃発後、どうやれば平和が回復できるのか。国連や国際機関、日本を含めた先進国がどう支援していくべきか、国連のミッションとNGOはどのように相互協力しているかなどをテーマに、「現代世界の民族紛争と紛争後平和構築」を学んでいる。
研究室DATA
久保 慶一 教授
久保慶一ゼミ(政治経済学部)
所在地:早稲田キャンパス4号館
Work
文献からただ知識を吸収するのでなく、「批判」してほしい
「『この学者はこう言っているけれど、本当は違うんじゃないか?』文献を読むときは、ただ読むんじゃなくて、批判するということをやりなさい」。
批判的な精神を身につけることが、久保ゼミの課題のひとつです。「このゼミでは、民族紛争のあと、どうやって平和を回復するかといったテーマを扱っているんですが、こういう分野には『正解』がない。国際社会が武力で介入すべきか、主権を尊重して中立の姿勢を貫くのか。どちらにも言い分があって、どっちが絶対正しいとは言えないですよね。人によってかなり意見が異なるので、常に批判的な精神をもつことが重要なんです」。
ゼミの内容だけでなく、久保先生は勉強する際の姿勢についても説明してくれました。とはいえ、その道の大家である学者が書いた本をどうやって批判すれば? 「たしかに難しいことなので、発表は3人一組のチームで行います。『自分がよく知っているこの国ではそのケースに当てはまらない』とか、視点を変えることによって批判ができるようになりますよ」。なるほど、文献は「自分に一方的に知識を授けてくれる教科書」ではなく、自分の意見を戦わせる相手なのですね。
旧ユーゴスラビアが専門の久保先生。コソボで撮ってきた写真を見せてくれました。13世紀ごろ建てられた修道院と修道士をイタリア軍やフランス軍が24時間体制で警備している地域を訪れたそうです。
自分の言葉で主張し、意見を交換する
社会学や比較政治学、国際政治学、経済学など、なるべくいろんな分野のものを読むようにしている文献ですが、今回読んでいるのはアラン・B・クルーガー『テロの経済学』。通説である「貧しく教養のない若者がテロリストになる」という考え方を数々のデータによって覆す内容なのですが、発表後のディスカッションでは無難な意見ではなく、「著者のこの論じ方はずるいやり方だ」など、自分が今本当に感じていることがほとばしる、といった感のある意見が飛び出します。
「本を読むだけなら簡単だけど、自分の言葉で人に伝えるのは大変」と、ナショナリズムや民族アイデンティティに興味を持っているという喜多 宗則さん(3年)は語ります。合宿で、人権と国家の主権の問題をテーマにディベートを行ったのですが、「論理的に、説得力をもって考えを述べるのは、普段から意識していないとできないものだな」と痛感したそうです。
高校の地理の授業でナイジェリアの民族紛争について学んだことからこの分野に興味を持った小暮 絵美さん(3年)にゼミの発表について聞くと、「読みづらい文献のときは最初から分担はせずにそれぞれで一通り読んで意見を交換して・・・というやりかたで資料を作り上げました。発表には全部で30分ぐらいかかることもありますよ」とのこと。
話を聞くとカタい内容のハードなゼミのようですが、堅苦しい雰囲気はありません。それは先生の人柄に負うところが大きそうです。喜多さんも小暮さんも、先生の人柄もこのゼミに決めたポイントのひとつだったと言うとおり、学生の発言をニコニコしながら聞いている姿からは、なんでも受け止めてくれそうな包容力を感じます。
世界で頻発し、解決には長い時間を要する民族紛争ですが、平和構築の一端を担う人材が早稲田からも次々生まれているんですね。
高校時代にジンバブエにホームステイした経験の持ち主、高校生のときからボランティア活動をやっていて、アフガン難民を支援する学生団体を設立した学生など、行動力あふれるメンバーが集まるゼミです。
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最底辺の10億人-最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?
ポール・コリアー著/中谷 和男訳(日経BP社、2008年)