「教職研究科」ってなに? 元校長などの実務経験豊富な教授陣による、実践的な演習に鍛えられる大学院
高度な専門性を持つ教員の養成を目的とする「教職研究科(専門職大学院)」。教職研究科には「ゼミ」という名の科目はありませんが、学生たちがディスカッションをしながら各自の研究を進めていくという形は同じ。「学校臨床実習I・II・III」は、学生が研究課題を実習校の現状に合わせて計画を立て、組織としての対応や教員としての教育活動のあり方を探る、インターンシップ型の実習です。
研究室DATA
小山 利一 教授(大学院教職研究科)
学校臨床実習I・II・III
所在地:早稲田キャンパス29号館など
Work
教科の専門性を研究する「教育学研究科」に対し、実習をベースに実務的に学ぶ「教職研究科」
将来は「教育」に関係する仕事がしたい! 先生になりたい! そう思っている人も多いのでは。教職課程のある大学で教員免許を取り、採用試験に合格したら先生に・・・という道筋が一般的ですが、さらに専門性を高めるという選択もできます。
学部で学んだあと、より高度な専門性を持つ研究を行う場所、大学院。そして、大学院のうち、特定の分野での専門的な職業能力を持つ実務家を養成するのが「専門職大学院」です。今回取材した「教職研究科(教職大学院)」もその「専門職大学院」のひとつで、見てのとおり「先生としての専門性」を追求する研究科です。
「ここでは教育実習がカリキュラムの中心となっていて、より実践的に学びます。大学院には『教育学研究科』が古くからありますが、そちらは教科の専門性を追究するところ。教職研究科は、教科指導だけではなく学級経営や生活指導など、教員になったら即求められる分野を2年間で経験できる。そういった点が教育学研究科と違うところですね」と、小山先生が説明してくれます。
たしかに、教員の職務には授業以外にも多くの仕事がありますよね! その分野を深く研究した先生の存在は今後ますます必要になってくるでしょう。実際、教職研究科には、学部を卒業してすぐ進学してくる人だけでなく、さらなる自分の能力アップを目指す現職の先生もたくさん在籍しているそうです。
取材した日は、修士1年生の1年間の集大成、「学校臨床実習 I 報告会」の準備が行われていました。高校で家庭科の教育実習を行った権田夏美さんが、実習報告を行います。調理実習の指導において、各生徒の行動からそれぞれの特性を推定。視覚、聴覚、五感を働かせるのいずれを好むかという特性に適した働きかけを行うことで学習効果の向上を狙うという内容。
「生徒の主体的な行動力を高める」という学校の方針、行事に全力で取り組むという生徒像を踏まえ、大学院で学んだ教育理論を活用して指導方針を固めます。そして行った調理実習の結果を考察。先生のひとつひとつの指導の裏に、これだけの理論が積み重なっているのだと驚かされます。
家庭科の教員を目指す権田さん。楽しかった思い出の調理実習に、これだけの学術的根拠をもって工夫がなされていたことに初めて気づかされ、先生への感謝が沸き起こります!
報告会では、6ページにまとめた報告書とポスターをもとにプレゼンを行います。15分のプレゼンの後に40分のディスカッションが待っています。
実習の期間だけでなく、年間を通じて協力校を訪問。実習生という立場で学校の課題にかかわる
二人目の発表者、同じく修士1年の森宗優明さんは小学校で実習を行いました。こちらも、実習校の学校全体としての課題、特性を踏まえて、学習の定着を図る指導方法を決定、授業を実践します。ノートの取り方指導において、文章だけではなく絵を描くことを促すことで学習効果が向上したのではないか。そのノートの取り方によって、自分にどんないいことが起こるかを子供たち自身に納得してもらうにはどうしたらいいか。先生は、クラスの状況に応じて、その都度最善の方法を探りながら授業をしているのですね。
今回の2名の発表の後は、先生や先輩からの質問やアドバイスの時間。「指導した6人の生徒のそれぞれの違いを説明しては?」「この教材の効果の検証に触れていないのでは?」などの指摘により発表の説得力がどんどん増していきます。そしてポスター発表ならではの難しさ、文字の大きさや色遣いなどデザインで伝える工夫までアドバイスは多岐にわたります。
途中、発表者が「この見立てで合っているのかわからなくて・・・」と迷いを口にするとすかさず「合ってるし、大丈夫!」と力強い言葉が返ってきていたのが印象的でした。「みんな優しいです、助け合うみたいな感じ」と権田さんが評する教職研究科。みなさん先生を目指すだけあって包容力がありそうです!
実習中心の教職研究科では、1年生で25日間、2年生で25日間の計50日間の実習に加えて、授業見学や児童と触れ合ったりする事前訪問、実習後に先生からの指導を受ける事後指導と年間を通じてひとつの学校にかかわっていきます。大学では教授、先輩や現職の先生からアドバイスやフィードバックをもらいつつ研究を行い、学校に行って実際に子供と向き合いながら現場の先生の指導を受ける。これが教職研究科での専門性の高め方なのです。
「男性も女性も自分の身の回りのことを自分の力でして、 一生涯それで生活スタイルを作っていくんだよというところを教えていくのが家庭科の使命であって、それを座学で終わらせるのではなくて実践できるように指導していきたいです」(権田さん)。「学部では実習をこなすのに必死、教員免許を取ることに必死だったので、教職研究科では実習に集中でき、意義のあるものにできたと思います。自信を持って現場に出たいです!」(森宗さん)。常に新しい課題にさらされる学校現場ですが、専門性と実務能力を兼ね備えた先生として、日本の教育を支えてくれることを期待しています!
ポスターという限られた面積の中にいかに情報を盛り込むか。先輩から「写真は説明しながらマジックテープで貼り付ければ紙からははみ出さない」という目からウロコの裏ワザが伝授されるという一幕も。
報告会直前の検討会。先生、先輩から意見がどんどん飛んでくる緊張の場ですが、こんな笑顔もこぼれる和やかな雰囲気でした。
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高校紛争 1969-1970 「闘争」の歴史と証言
小林哲夫 著(中公新書)
「選挙権が18歳に引き下げられましたが、高校生が政治に無関心すぎると私は思っています。この紛争という手法は間違っているとは思うけれども、当時の高校生が社会を考え、世界を考え、日本の将来を考えて行動した様子には学ぶべきものがありますよ」(小山先生)。社会の主人公としての目線を持ってほしいという願いを込めての推薦です。