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ゼミ紹介

Seminar

人文学を通じて世界と人間について考える鴻野ゼミ

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アート、文学、映画などを中心に、海外や日本の芸術作品の研究を行います。作品の分析や作家の研究だけでなく、文化を通じた国際交流、現代美術と絵本、アートと地域の関わり、現代詩研究など、芸術や文化をめぐる様々なテーマを扱います。
過去のゼミ生の卒業論文のテーマには、ミニシアターの機能の変遷、ある脚本家の創作の手法と主題の変化、コミックスにおけるジェンダーやLGBTの問題、速記の視覚芸術性、ハリウッド映画における東洋人のイメージ、日本における国際芸術祭の展開、笑いの境界(いじりといじめ、障害者と笑い)などを扱ったものもありました。文学、芸術学、比較文化学、文化史的な視点に基づいてではありますが、文化におけるマイノリティ研究等も可能です。

研究室DATA

鴻野わか菜 教授 「複合文化学演習10」(教育学部 複合文化学科)
所在地:早稲田キャンパス16号館

 

Work

人文学を通じて人間と世界を理解する

 このゼミで扱われる様々なテーマは、テーマ自体は限定された狭い範囲のものであっても、人間、社会、世界、歴史について考えるための視座となるものです。

 たとえば、日本のコミックスの外国語への翻訳に関する研究について考えてみましょう。翻訳は、文学作品、映画などを翻訳したり、それを鑑賞・受容したりする場合にのみ生じる作業であるだけではなく、異なる言語、異なる文化の人々とコミュニケーションをとる際に、私達だれもが日々直面し得る問題です。ある作品の翻訳について研究することは、異文化接触や異文化コミュニケーションの諸問題や課題について考察することにつながっています。

 また、文学作品研究の場合はどうでしょうか。たとえば、ロシアの20世紀初頭の詩人アレクサンドル・ブロークにとって、「月」や「夕暮れ」という言葉は、永遠の救済の訪れと結びついた特別な意味を持っていました。ブロークがある詩において「夕暮れ」という言葉にどんな意味をこめていたかを知るためには、本来ならばブロークの作品をすべて読み、彼の書簡や日記も分析し、同時代人のブロークについての記録を読み、ブロークが愛読していた文学や傾倒していた哲学などを調べる必要があります。

 実はこうした文学研究は、私達の日々のコミュニケーション、相互理解にも通じています。私達は、たとえ同じ言語を話す人間同士であっても、相手がどのような意味でその言葉を発しているかを正確に理解することは困難なものです。地道な文学研究や翻訳研究は、他者を理解することの困難さと、それでも他者を理解しようと努めることの重要性を示唆するものでもあります。外国文化研究、文学研究、比較文化論的研究、表象研究という人文学の学びは、他者の言葉や表現を理解し、他者に自分の言葉を伝えるという、人間のもっとも根本的な営みを支えるものです。このゼミでは、人文学の手法で文化を学ぶことで、世界や人間に関する理解を深めることを目的としています。

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年に2回程度、海外や国内からゲストスピーカーをお招きして、特別レクチャーを開催しています。この日は、ロシアから来日したエヴゲーニー・シュテイネル博士による美術と絵本に関する講義を聞きました。

社会の基盤としての文化研究

 私達は子供の頃から様々な国の絵本や物語を楽しみ、外国映画やドラマを鑑賞し、時には美術館や博物館を訪れ、様々な文化を享受しています。私達のまわりに当然のように存在するそれらの文化や娯楽は、過去の作家や映画監督だけでなく、翻訳者、学芸員、文化研究者など人文学に携わる多くの人々の仕事によって生み出され、維持されてきたものです。
また、外国語の学習や海外の文化の研究によって、他者の文化を知ることは、他者との共生、世界の平和の基盤となる多文化交流の基盤となっています。

 また、私達は、日々、新聞やニュース、雑誌、広告、あるいは映画や小説など、様々なメディア、作品、言説に触れています。そこに書かれているもの、表現されたものをそのまま無批判に受け入れるのではなく、その背景にある発言者の意図や考えを理解し、それに対して自分がどう接するのかを主体的に考えるためにも、テクスト研究、文化研究は重要な意味を持っています。ゼミでは、社会の基盤となる人文学の様々なテーマを扱います。

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ゼミでは、早稲田大学の演劇博物館、會津八一記念博物館、大学から歩いてすぐの新宿区立漱石山房記念館(写真)、永青文庫美術館などにも見学へ行き、美術、演劇、文学の展示方法について理解を深めます。

Message

先生からのメッセージ

 
大学入学前の数年間は、受験や進路選択で迷うことも多い時期だと思います。私も受験生の頃、進路をなかなか決定できませんでした。文学、美術、絵本、映画、外国文化に関心があったので、何を学ぶにも外国語の習得は基盤になると思い、大学でロシア語を学ぶことを決めたのは受験直前でした。早稲田大学教育学部複合文化学科では、ロシア語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、中国語から1つを選び、外国語を通じてその背景にある文化を学ぶことができます。外国語の学習は決して退屈なものではなく、未知の文化や未知の思考体系を経験することだと思います。母語で考えている時にはどうしても解決しなかった問題について、外国語を通じて別の見方をすることで、予想もしなかった側面が見えてくることもあるでしょう。
一定数の外国語の単位を取得しながらも、文化や歴史、社会、言語、そして情報に関する多様なテーマについて自由に幅広く学べることも、複合文化学科の魅力です。皆さんの入学をお待ちしています。

※写真について:2017年に南極での初めての国際芸術祭「南極ビエンナーレ」に参加し、世界各国のアーティストや研究者と12日間、南極を旅しました。

Recommend

このゼミを目指すキミに先生おすすめの本

夢みる力――未来への飛翔 ロシア現代アートの世界

鴻野わか菜・北川フラム著(市原湖畔美術館、2020年)

2019年に市原湖畔美術館でゲストキュレーターとして「夢みる力――未来への飛翔 ロシア現代アートの世界」展を担当した時の図録です。ロシアの現代アートの背景にも、ロシア文学、日本やフランスなどの外国文学、哲学、冒険の歴史などがあることが分かります。
ロシア文化事典

沼野充義・望月哲男・池田嘉郎 編集代表(丸善出版、2019年)

編集者の一人として、美術や音楽に関する章を担当しました。205名の執筆者がロシアの歴史、生活、文化、科学などについて書いています。事典ですが、それぞれの項目を読み物として楽しむことができます。
かぜをひいたおつきさま

レオニート・チシコフ、鴻野わか菜訳(徳間書店、2014年)

ロシアの現代アーティストが文と絵をかいた絵本です。孤独な男の子と月の交流を描いた優しい物語ですが、作品を研究すると、チシコフが長年関心を抱いているロシアの哲学、20世紀初頭のロシア・アヴァンギャルド芸術、月をテーマにした海外文学などの影響が見られることが分かります。
イリヤ・カバコフ世界図鑑――絵本と原画

神奈川県立近代美術館他編(東京新聞、2007年)

神奈川県立近代美術館などで開催された「イリヤ・カバコフ世界図鑑――絵本と原画」の図録です。章解説、作品解説などを執筆しました。ソ連系ユダヤ人作家であるカバコフの初期の絵本と後期の立体作品の連続性、政治と芸術の関わり、ソ連における民族問題などを分析しています。
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