「文化」と「社会」との関係を自由な発想で考える、小長谷ゼミ

「文化」は、現代社会の出来事や問題とどのように関わっているのか、また人々の経験や考え方にどんな影響を与えているのかなど、「文化」について自由な発想でとらえ、考えていくゼミです。さらに、「文化」を研究するためにはどんな方法があるのか、その方法論についても検討します。研究の際には、できるだけフィールドワーク(教室外で行う実地調査)を取り入れることも目標としています。
研究室DATA
小長谷 英代 教授
ゼミナールII・III 公共文化研究(社会科学部)
所在地:早稲田キャンパス14号館
Work
まずは、自由な発想で「文化ってなんだろう?」と考えてみる
2013年度に新設されたこのゼミのテーマは、「公共文化研究」。小長谷先生によると、学問の垣根を超えて多元的な視点から学びながら、新たな「公共」を問う「場」としての「文化」の意義や可能性について、考察していく学問なのだそうです。「『公共文化』いう語は、Public Culture――欧米のカルチュラル-スタディーズの研究者を中心に展開するフィールド――を日本語に置き換えたものですが、英語のpublicと日本語の「公共」ではそれぞれの意味するものは異なります。その違いを問いつつ、授業では、文化と国境、グローバル化、自由、多様性、民主主義といった論点をもとに、「公共」についてあらためて考える場として文化をとらえます」
ただ、基本はあくまで文化研究です。ほとんどの学生は、初めて「文化」について研究するので、まずは「文化」への洞察力を身につけるところから始めるとのこと。「『文化』は、よく日々の雑多で厄介な現実社会の問題や出来事を超越した次元に連想されるかもしれません。特に『伝統』的な文化の様式、たとえば『日本文化』なら能楽や茶道などは、俗事から切り離してとらえられがちです。でも、このゼミではむしろ、文化が――『伝統』的であれ、『現代』的であれ――いかに現実の社会や政治、経済の問題、さらには国家や歴史、権力などの複雑な関係に深く関わっているのかを考えていくんですよ」。なるほど、これが社会科学部で文化を研究するということなんですね。また、文化がいかに思考や知識、感情、経験といった人々のコミュニケーションを媒介にしているということも理解しながら、「文化」における「公共」の意味やあり方について論じていくそうです。
では具体的には、どんなことを学ぶのでしょうか?「まず、『文化』が日常生活の中でどんな意味を持つのか、あるいは個人の経験や考え方とどのように関わり合っているのかなどを考えていくことです」。普段の生活ではあまり意識することがない「文化」にあえて目を向けることが、まず大切なのだとか。
新たにゼミを始めるにあたって、大人数の授業ではなく少人数のゼミだからこそできることをしたい、と小長谷先生は考えたそうです。そこで、ゼミではできるだけ学生の視点を生かしたり、学生に自由に話してもらったりということを尊重しています。「学生たちにも、自分たちで企画して、こんなことがやりたいとぜひ提案してもらいたいと思っているんですよ」。
さて、ここからは実際のゼミの様子を見ていきましょう。ゼミは、学生が自分の意見や発想を自由に表現できる場で、人に説明する表現力を鍛える絶好の機会ですから、発言、発表することが重要です。たとえば、特定のテーマ「ブラックカルチャー」について、学生がそれぞれの観点(「ヒップホップ」「R&B」「ディスコ」「銃社会」など)から捉え、パワーポイントで発表しました。また、学生が各自日常の生活や過去の体験から、関心を持っている事柄、たとえば「ファストファッション」「レ・ミゼラブル」「カリスマ性」「アパルトヘイト」「メキシコの家族」などを取り上げて発表することも。「それは、現代の文化研究のあり方を理解してもらうためにも、最初は、固定観念にとらわれずに自由な発想で『文化ってなんだろう?』と考えて、実感してもらいたいと考えたからです」。

3年生のゼミ生は全員で7名。少人数なので、みんなとても仲がいいんです。ゼミの伝統がないからこそ、自由にアイデアを出し合って楽しくやっています」(3年・北野さん)。
「当たり前を常に疑ってみる」のが、小長谷ゼミの基本です!
前期の最後には、フィールドワークとして六本木の美術館にゼミ生全員で出かけました。ただし、美術館だからといって、単に作品の鑑賞をしたわけではありません。「専門用語ではエスノグラフィーと言いますが、その文化的空間の中で人々がどのように展示品を見ているのか、どんな動きをしているのかなどを見ることが目的でした」。
つまり、「作品を見ている人を見ていた」ということで、なんだか不思議ですね。「文化というと、とかく個別の項目としてとらえがちですが、そうではなく、それが置かれた状況、時空、社会、政治、経済の中での位置づけも含めて考えることが大切なんですよ」。
ゼミでは発表や議論と同時に、文化に対する理解を深めて文化研究の方法を学ぶために、さまざまな論文を読んでいます。各論文のキーワードを手掛かりに、文化研究へのアプローチをとらえていきますが、ある日のゼミでは、『カルチュラル・ターン、文化の政治学へ』(吉見俊哉著、人文書院)の「グローバル化のなかの文化と権力」の章を読んで、「文化のグローバル化」について話し合いました。グローバル化や権力は、現代の文化を理解する主要なキーワードだそうですが、それを音楽、映画、ファッション、食文化等、学生の身近な現実の経験の中で、具体的に突きつめていくことによって、普段考えてもみなかった新しい発見ができるのです。
ところで、小長谷先生がゼミで学生たちに常に伝えているひとつの基本があるそうです。それは、「当たり前のことを疑う」というもの。「物事を何でも当たり前と受け止めるのではなく、なぜそうなのか本当にそうなのか、一度、疑問を持って見て欲しいと思います」。言葉にするとシンプルですが、実は「文化」を研究する上ではもちろん、今後、社会に出て生きていく上でも非常に重要なことなのだとか。このゼミの根本は、まず自分の目で見て、自分の頭で考えることなんですね。

スポーツと人種問題の関わりについて発表中! 「先生は、どんな意見も否定しないで一緒に考えてくれるので、結論にすごく納得がいきます」(3年・善積さん)。

2013年12月に行われたゼミ合宿にて。「一泊二日で、ゼミ生全員が各自のテーマで発表しました。普段接する機会のない2年生と3年生が交流の機会を持てたのもよかったですね」(小長谷先生)。
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