「他人事≒自分事」をコンセプトに学び合い深め合う「菊地ゼミ」
菊地ゼミでは、教育社会学を軸にして、自分なりの問いと向き合います。その際、教育と社会の「あたりまえ」を問い直すことを出発点としています。他者の「切実さ」が浮かび上がる出来事を真ん中に据え、学問というツールを活用しながら探究を進めます。さらに、具体的な解決策(自分なりの答え)を探し、かつ、それを現実化していくにはどのようにすればよいかを考え、行動していきます。コンセプトは、「他人事≒自分事」。いまの社会で一番必要とされていることです。本を読んでわかったつもりになるのではなく、他者と語り合い聴き合うことで学びを深めていく点がこのゼミの最大の特長です。
研究室DATA
菊地栄治(教育学部教育学科教育学専修)
教育学演習Ⅰ・ⅡG
所在地:早稲田キャンパス16号館8階
Work
自分と仲間の問いを磨き合う学びの場
葉桜の緑が生命の息吹を感じさせる4月上旬、演習室に少し緊張した面持ちで3年生と4年生が入ってきます。15年かけて学生たちと教員が創ってきた「行きたくなるゼミ」には、(不思議なことに)就活で忙しいはずの4年生もちゃんとやってきます。
まずは、初回のゼミでは「自分を開く」儀式をたっぷり1時間かけて行います。しかし、新歓コンパを二次会までやっても、そう簡単にアイスブレイクするわけではありません。このゼミでは、鎧を着込んで「〇〇なAさん」というレッテルを引き受け演じることをよしとはしません。同じ週の終わりには、恒例の「いきなり春合宿」を開催します。代々4年生が知恵を出し合ってプログラムを練り上げ、いっしょに身体を動かしつつ楽しみながら世の中の「あたりまえ」に疑問を抱くワークを行います。最終日の「こんなゼミにしたい」には、それぞれの学年や個人の思いがにじみ出て、いっしょに創っていくという貴重な経験のスタートが切られます。
麓に帰って夢から覚めるのではなく、夢の続きを創ります。最初のコンテンツは、教育社会学の教科書たちを見渡し批判的に読み解く「輪読」です。ここでも、自分の問題意識に近いテーマを選ぶことで、「やらされている感」だけが残るゼミにしないようにしています。4年生は、3年生だった前年度終盤のポスターセッションにいたるまで自分の問いを掘り当てていった経験をふまえ、新年度にはその延長線上に「卒論構想発表」をします。話しやすい雰囲気をはぐくみ、当事者意識を深めるために、興味をもった新聞記事等を批判的に読み解く「ニュースの時間」も毎回設定しています。ゼミ生はほぼ毎年25名前後ですので、演習室もZoomも狭く感じられますが、人数が多いことは決してマイナスではありません。その分だけさまざまな知恵が寄り集まっているということを意味します。3つの島に分かれて丁寧に議論し、その上で3つの議論を重ね合い、教員がコメントを加えるという流れであっという間に所定の時間が終わります。昼休みを挟んで(単位にもならないのに)自主ゼミを企画し実施しているゼミ生のエネルギーには恐れ入ります。
「他人事≒自分事」は、出来事を真ん中に据えて「わかり得ないこと」も大事にしながら、他者の切実さを自分なりに受け止め向き合っていくことを意味します。その学びを支えるための人間関係づくりのイベントには事欠かない菊地ゼミです。センセイ(=教員)といっしょに「スポッチャオール」をするゼミが世の中にもっと増えることを願っています(笑)。
コロナ感染拡大前年の「大同窓会」です。「密」ですよっ! 各方面で奮闘する卒業生とのつながりをはぐくむことは、ゼミづくりの醍醐味かもしれません。
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早稲田祭アカデミック企画という「見えないカリキュラム」
あれは2007年のことでした。とある男子学生がけしかけてくれて始まったのが、早稲田祭でゼミのアカデミック企画を出展するという風変わりな試みです。13年にわたって毎年新たな企画をゼロから立ち上げ実施し続けてきました。「先輩と創った企画を超えたい」という4年生のプライドと、「まだ知識と経験が少しだけ乏しいかもしれないけれどがんばりたい」という3年生の思いが重なり合って、毎回会場を満員にしてきました。事後のアンケート結果からは、年々来場者の満足度が高まっていることがわかります。その成功体験をイメージしつつ、しかしそれに引きずられないように、新鮮な気持ちでいっしょに考えて動いていきます。
一見すると無駄で面倒くさく思えることを私たちはどんどん切り捨ててきたのではないか…。そんな思いがあったかどうかわかりませんが、ともかくも走り始めると大学生は一心不乱に取り組んでいきます。そこにもうひとつのトラップがあります。自分の思いだけが先に立ち、良かれと思ってやっていることで傷つけたりすることもあります。あるいは、ことを急ぐあまりに「多数決で決める」という安易な方向に流れ、小さな声が聴きとれなくなることも少なくありません。「俺はこんなにがんばっているに…」というきわめて人間的な感情が出てくるぐらいにコミットしたときに、週1の集まりで書物に頭を突っ込んでいただけでは到底得られない尊い関係性と智慧が紡がれます。
来場者にいっしょに学んでもらうためにはどのように伝えればよいか、そもそもこのテーマは他者の「切実さ」に寄り添っているのだろうか…。ゼミ生たちはゆさぶりゆさぶられながら、教科書には書いていない学び(「見えないカリキュラム」)を経験し、学びの空間を織りなしていきます。お互いにかかわって変わり合っていく姿を何度も目にするたびに有難いことだなぁと思うのです。
早稲田祭の日には、毎年多くの卒業生たちが後輩の努力をねぎらう(冷やかす)ために、手土産をもって駆けつけてくれます。その優しさはどこから来るのだろうかといつも考えるのですが、答えは見つかりません。今年もやり遂げます。新型コロナぐらいでへこたれるようなゼミじゃない!(笑)
2つの企画を創り4つの時間帯に分けて2回ずつ実施するのが最近の定番となっています。いつも「思いがけない学び」を来場者のみなさまに経験していただいています。ファシリテーターとしての腕の見せ所です。
Recommend
このゼミを目指すキミに先生オススメの本
他人事≒自分事-教育と社会の根本課題を読み解く-
菊地栄治著(東信堂、2020年)