「会社法」の世界から、今という時代を感じる 川島ゼミ
株式会社に関する会社法や金融商品取引法上の問題を研究します。株式会社とは「株式」を発行して資金調達する会社のこと、金融商品とは株式や社債などのこと。会社勤めの経験がない高校生や学生にとって、ピンと来ない分野かもしれませんが、実は、経済ニーズに合わせて動きがある分野。会社法を通じて、常に時代の流れや経済状況を感じることができます。
研究室DATA
川島いづみ 教授
(社会科学部 会社法の研究)
所在地:早稲田キャンパス14号館
Work
会社法ってどんな法律?
社会にはさまざまな法律があります。川島ゼミが研究するのは「会社法」、会社が活動するときのルールの基になっている法律です。 普段の暮らしの中ではなかなか意識することがありませんが、具体的にはどのような法律なのでしょう?
「たとえば、企業買収や企業合併などでふたつの企業が一緒になろうとするとき、どのようなプロセスで進めていく必要があるのかが会社法で定められています」。身近なところでは、玩具メーカーの「タカラトミー」は、 タカラとトミーが2006年に合併してできた会社。 同じようにセガサミー(セガサミー ホールディングス)やスクウェア・エニックスも、合併した会社のわかりやすい例です。
「平和的な企業合併もありますが、一方の企業が望んでいない買収を、もう一方が強引に進めようとする場合もあります。 このような買収を防ぐためにはどうしたらいいのかということも、会社法に定められているんですよ」と川島先生。株式を買ってもらうことで活動資金を集める会社が「株式会社」。そして、株式をたくさん持っている人や企業はその会社の重要な決定事項に関われるので、会社の活動に大きな影響力を持ちます。特定の企業や個人が、ある会社を支配するために合意なく株式を買い占めるのは、「敵対的企業買収」とニュースになることがありますね。ほかにも経済関連の報道で目にする言葉、 「粉飾決済」、「株式公開買い付け(TOB)」、「コーポレート・ガバナンス」などを思い起こすと、会社法も意外に身近に感じられてきます。
その日のゼミでは、「取締役の義務と責任」について発表が行われていました。ある会社の経営陣が別の会社を子会社化するために株式を買い取った際、その値段設定が高すぎたとして、株主から損害賠償を求められたという実際の裁判が題材にとりあげられています。「経営判断する際に集めた前提としての事実の認識に不注意な誤りがあったら、その時点で取締役の善管注意義務違反が決まって...」。聞き慣れない法律的な単語や言い回しが次々と出てきます。このゼミのみなさんは、こんな法律の条文が頭に入っているのでしょうか?
「実は、覚えているかどうかは大事なことではないんですよ。とはいえ私自身も、かつて法学部に入ったときは、条文を覚えればいいんだと思っていましたけどね」と先生の顔に笑みが浮かびます。「法律で定められているのは、ごく取っ掛かりの部分。それをどう解釈するか、どう使っていくかというのが法律を勉強するということなんです」。
なるほど、この日の発表の題材になっていた裁判も、東京高裁では経営者の違法性が認められていたのに、最高裁では違法性はないという結論が出ていました。法律を複雑な個々の状況にあてはめるには解釈が必要になること、その解釈はひとつではないことの表れです。
「取締役の責任」について、実際の裁判の例をもとに斎藤祐希さんが発表。ポイントがつかめていないと流してしまいそうな、判例内の言葉遣いについて緻密に考察し、解釈を導きます。独自の視点からの分析に、先生が「ユニークなとらえ方ね。研究者にならない?」と勧誘(?)。
約1時間にも及ぶ発表が終わると、近くの席の人と軽いディスカッション。 鋭い意見や感想が投げかけられます。
法律的な感性が、誰にでも必要になる時代
ゼミでは判例の研究のほかに、学生同士で議論を行うことも。たとえば...
Q.株式会社Aが買収されそうになったとき、経営陣が新しい株式をたくさん発行して、味方になってくれる人たちに買ってもらった。
会社法では
・事業に必要な資金を調達するために株式を発行するのは合法
・企業を防衛するための発行を経営者が勝手に決めるのは違法
では、この株式会社Aの経営陣が行った株式発行は合法か、違法か、どっち?
「経営陣のとった行動を法的にはどう解釈するか。それによって、合法と違法のどちらの立場からも主張できるんです。それで、授業では、合法派、違法派に別れて議論するんですよ」。それぞれの立場に自分を置いて、説得力のある意見を出すべくあらゆる角度から事件を検証します。こうして培われた分析力を使って、各ゼミ生は論文制作に取り組みますが、卒業生は法律関係に進む人が多いのでしょうか?
「いえ、実際に法律関係の仕事に就く人は少ないですよ。でもどんな方面へ進んでも、『法律的な感性』というのはとても重要です。このゼミでは、そういう感性が身につきます」。
最近ニュースになったことで言えば、大王製紙の事件。大王製紙の前会長が100億円以上ものお金を子会社から借りて、こともあろうに、カジノ賭博につぎ込んでいたというニュースを覚えているでしょう。
「経営者が自分個人の利益のために会社を自分勝手に利用することは法律で禁止されているんです。だから大王製紙の前会長がやったことは法律違反。経営者だからといって許されることではないんですね。もしこのように、法律に反することをやっている人に気づいたとき、法的にはどのような対処ができるのかといったことも、このゼミでの勉強の対象になります」。 この例では会長ですが、もっと身近な、自分の上司が違法なことをやっているんじゃないかと気づいたときも、会社法を知っていれば、解決方法を見つけ出せるのです。
会社に関することに限らず、問題解決のためには法的な思考がとても有効なのだそう。近所にひどく迷惑な人がいるとか、買い物でおかしなものを買わされたとか、日常生活の中でトラブルに巻き込まれたときも、何が問題なのか、ベストな解決方法は何か、解決のための窓口がどこにありそうかなどがピンと来るようになるのです。いろいろな法律が空気のように世の中に存在していて、平常は意識しないのですが、それを感知して活用できる力は、これからの時代を生きる人にとって大きな強みになることは間違いありませんね。
Recommend
このゼミを目指すキミにおすすめの本
ハゲタカ
真山仁・著 (講談社)