彼末研究室で「体を動かすのがうまい人」の脳を研究してみよう!

野球のバッティングスキル、ピッチャーの好調時と不調時の違い、陸上競技選手の筋線維組成などに迫る「トップアスリートの秘密」、運動イメージと実際の動作の関係を解き明かす「ボディ・イメージ」、神経や筋肉をコントロールする「コーディネーション」、皮膚温変化や温度に関する感覚について身体各部位の特徴を調べるな感覚「温度と感覚」の4分野を主な研究テーマとしています。MRI、脳波計、スポーツ動作を解析するためのソフトなどを使用して実験を行います。
Work
トップアスリートは、「筋肉がすごい」わけではない!
「運動というと筋肉を使うとまず考えるんですけど、筋肉には脳から命令を送らないといけない。ですから運動ができる人というのは、筋肉がいいわけではなくて脳がいい、要するに頭がいいということなんですよ」
ゼミ生さんからも「話がおもしろい」と評判の彼末先生、インタビュー開始早々から、興味を喚起する説明をしてくださいます。「運動ができる=頭がいい」。みなさんは、子どものころに「なぜ自分の手は無意識のうちに目的どおりに動くんだろう」と不思議に思ったことはありませんか。なぜ狙ったところにボールを投げられるのか、そしてなぜ自分はゴミをゴミ箱に投げ入れるのが下手なのか!? マトのど真ん中にボールが命中したときも、10cmはずれたときも、投げる動作にぱっと見では大きな違いはないはず。この絶妙なコントロール、脳はいったい何をやっているのでしょう??
「頭の中で運動をイメージして、それを実行する。たとえば逆上がりをしているところをイメージして、脳のどこが活動しているか。逆上がりができる人とできない人とではどう違うか。MRIという機械を使うと、イメージしたときの脳の状態がわかるんです」。できない人は、やはりイメージそのものができていないことが明らかになっているそうです。「運動神経」とは、まさに脳の中にあるものなんですね。
もともと体温や体の内部環境の分野を専門としていた彼末先生は、スポーツ好きだったことからスポーツと体の研究へ。限界ぎりぎりまで能力を使いきるトップ選手を通じて体の仕組みを解き明かすと同時に、さらに能力を高めるための方法探ることも研究室のテーマです。研究室には元早稲田大学野球部のトレーナーが在籍していて、プロ野球に入った斉藤選手や大石選手の測定をしたりもしていたとのこと! ほかにも、広島東洋カープ入りした福井優也選手、高校インターハイの体操のチャンピオンから早稲田フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターまで、お互いを研究対象にしたくなるような「体を動かすのがうまい人」に事欠かない研究室なのです。

研究室には、人の動きをデジタルで記録する「フルボディモーションキャプチャーシステム」が設置されていました。
研究発表コンテストで、自分の研究の第一歩を踏み出す
取材に訪れた日は、研究室に入って半年という3年生の研究発表コンテストが行われていました。半年間で各種測定機器の使い方や実験のやり方の基本を学び、その中から自分の興味を持ったことについて実験を行ってまとめるのだそうです。コンテストには院生やほかの研究室からの見学者も参加し、細かく採点するという一大イベントです。
発表のひとつの内容を見てみると、光を屈折させることによって視線をずらすプリズム眼鏡をかけて、壁のしるしに向かってボールを投げると、最初は当たらないがだんだんしるしに近づいてくる。次に眼鏡をはずすと、眼鏡をかけていたときの学習に引きずられて当てられなくなっている。この実験を通じて「ピッチング動作の技能が、脳内にどのように存在するか」を考察するというものでした。
ほかにもサッカーのインサイドキックの練習をするとアウトサイドキックもうまくなるか?というものや、運動中の触覚が脳内でどのように処理されるかといった発表が行われました。これで、3年生の最初のステップは一区切り。ここから卒論、大学院への進学など研究を重ねていくことになります。陸上競技をやってきた博士課程1年の中川さんは、既成の事実を学ぶだけではつまらないと修士課程へ進学、そこで学ぶうちに「これでも全然足りない」と気づいてさらに進学したそうです。
「体のいろんな部位を同時に協調させて動かすということを神経科学的に研究しています。詳細なメカニズムはまだわかっていないんですよ」と、研究内容を紹介してくれました。身近な存在でありながら、普段は意識していない「体を動かす」という仕組み。脳がどうやってコントロールしているのか、解き明かしてみたい人はぜひ研究室を訪れてみてください。

「プリズム眼鏡」を使用して、ピッチングにおいて、「上投げ」のときに学習したことは「スリークウォーター」でも実践できるか?ということを野球部の選手の協力で研究したそうです。

集めたデータを分析し、ユーモアを交えながら動作の学習効果の持続について結論を発表。質問もどんどん投げかけられます。
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