化学反応を原子レベルで見つめて、プロセスを探索する石原研究室
金属原子と非金属原子が結合してできる化合物「錯体」の生成メカニズムや、その性質を解明する研究室。錯体が生成するときに、どのような条件下でどのように反応するのか、原子レベルの正確な反応メカニズムを解析しています。ある反応のメカニズムが、推定されていたものとは異なることを実験的に証明したりするなど、今まで誰も知らなかったことを明らかにしています。
研究室DATA
石原 浩二 教授(先進理工学部 化学・生命化学科)
所在地:西早稲田キャンパス65号館
Work
化学反応の理解は「推理小説の犯人当て」?
金属というとアルミニウムや鉄など、固いものというイメージがありますが、それに金属以外の原子・分子が結合すると、全く性質が異なる物質となってしまいます。その物質が「錯体」。この研究室では、金属のなかでも白金やルテニウム、イリジウムなどに注目して、それらの金属がどのような原子・分子とどのように反応して錯体が生成するのか、その「過程を知りたい」として研究しています。
「化学の基本は化学反応ですが、多くの場合、過程をあまり重視しません。しかし、この研究室では過程を知りたいのです。なぜ、どういうふうにどこの原子がどこの原子にアタックして反応が起こるのか、それを調べています」。確かに、化学反応というと、AとBという物質からCという物質ができる、というように教科書には書いてありますね。しかし、この研究室では、Cという物質ができるまでに何が起きているのか、その過程を見ているとのこと。
それはまさに「いかに現象を理解するか」ということです。いろいろな機器を用いて反応のようすを測定し、その結果から化学反応で何が起きているのかを推測するわけですが、それはまるで「一種の推理小説」と石原先生。「ずっと考えていくと、たぶんこれ以外にないだろうというところまで行き着くことがあります。犯人がわかるプロセスに似ていますね」。測定結果という証拠を集めて、現象を引き起こしている犯人を見つける。高校の化学の授業では、化学反応は覚えるだけという印象がありますが、実際の研究では観察力と想像力が必要だということに気付かされます。
この研究室では、今まで推定されていたことを否定する実験結果を示して、正しい現象の理解にもつなげているとのことです。「誰かがこうだろうと言い出すと、それを信じてしまう人もけっこういます。しかし、実際には確かめられていなくて、自分で確かめてみたら違っていたということはありますね」。先ほどの推理小説の例でいうと、濡れ衣を着せられた人の無実を証明するかのよう。石原先生も「やってみないとわからない」と述べていましたが、ちゃんと自分の手と目で化学反応を理解することが大切なのです。
このような、化学反応を理解するということ自体は、すぐには私たちの生活に役立つことではありません。しかし、こういった基礎研究の結果を別の研究者が参考にして、新しい物質の合成や新しい性質の発見につなげることで、私たちの生活が豊かになるのです。そう考えると、ここで研究していることは、縁の下の力持ちとも言えますね。
これは「紫外可視分光光度計」という測定機器。物質を反応させたときの変化を、紫外線を当てて測定しています。この研究室には何台もあり、取材したときも測定中でした。
実験テーブルの上には、試薬が入ったビン・実験器具・実験用品などが、ところ狭しと並んでいました。
実験がうまくいかないときも、研究室のメンバーや先生がついている!
この研究室に所属する学生は、個別に研究テーマを持っています。「白金と有機物(炭素を含む化合物)の反応」を研究しているのは修士2年の寺田高朗さん。「予想を立てて反応を見ますが、予想とは全然違うような兆候が見られると、それはまたおもしろい発見」だそうです。ここにも、先ほどの石原先生の「やってみないとわからない」と通じるものがあります。ちなみに、今解析している反応は3日かかるとのこと! データをとるのが大変ですが、そこは実験の組み立て方を工夫することで、効率よく研究を進めているそうです。
学部4年の藤岡侑里さんは「発光特性のあるイリジウム錯体の新規合成」を研究テーマにしています。「新しいものを作っているので、それをやり通したいです。今までにないものを作ろうとしているので、うまくいかないときもあります」。高校の実験では、手順などが決まっていて、ちゃんと結果が出るようになっています。しかし、研究室の実験では、手順から自分で調べることから始まり、予想通りの結果が出るとは限らないので大変です。
実験をしていると、どうしても帰りが遅くなることもあるようですが「周りの友達も残ってたら楽しくなっちゃう」(藤岡さん)そうです。この取材をしているそばでも、研究室のメンバーは和やかに話をしながら実験をしていて、とてもアットホームな雰囲気が感じられました。そこで、石原先生のイメージを尋ねると「質問に丁寧に答えてくれて、課題を解決してくれる」(寺田さん)という返事。頼もしい先生のようです。
そんな学生を、石原先生はどのように見ているのでしょうか。「学部4年で研究室に入ると、自分のテーマで研究するので意識が変わります。1年くらい経つと意識がかなり変わるので、研究室に入る意味はあると思います」。自分で手順を考えて実験を行い、結果を分析するというプロセスを身につけてもらいたいと考えて、学生に指導しているようです。このように、先生と学生がいっしょになって、誰も知らないことを見つける、誰も作ったことがないものを作るのが、この研究室の魅力だと感じました。
これは蛍光を放つ錯体。紫外線を当てると黄緑色に光ります。特定の物質と結合するとさらに性質が変わることから、その物質のセンサーとしての利用法も考えられています。
この蛍光物質は、金属と結合させて錯体を作るための材料。錯体を作るための材料も、自分たちで作ることもあるそうです。
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