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ゼミ紹介

Seminar

「史料批判」を学ぶと、歴史の「真実」が見えてくる! 石濱ゼミ

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アジア圏の過去の史料や歴史的文献から、当時の異文化交流あるいは文化摩擦の状況などを学んでいくゼミです。 史料を読み込む際には、特に「史料批判」を重視します。 事実はひとつでも、史料の作者の立場や 宗教、民族、考え方などによって書かれる内容は変わってくるからです。そこで、複数の同時代史料を読み比べたり、どんな状況でその史料が書かれたのかを客観的に見られるように検討し、史料批判の方法を身に着けていきます。併せて、史料の探し方や史料を読むための基本的な知識やノウハウも学びます。

研究室DATA

石濱 裕美子 教授
(教育学部 社会科 地理歴史専修)
歴史学演習I J
所在地:早稲田キャンパス14号館

 

Work

史料を批判的に読むことは、主観を排除して事実を追究すること

 高校までの「歴史(世界史・日本史)」の授業では、歴史書に書いてあることを疑え、なんてことはおそらく教わらないはず。でも、歴史を本格的に学ぶ上では、過去の史料を「批判的に読む」ことは絶対に欠かせないと石濱裕美子先生は言います。「同じ現実を見ても人によって解釈はいろいろだからです。史料の書き手次第で、ひとつの出来事をよいことととらえる場合もあるし、逆に悪いこととして書く場合もあります」。

 また、書き手にとって重要ではない、あるいはあえて触れたくないことについては、史料に残さないという選択をしているかもしれません。そこで、「本当のこと」がどうだったのかを知るには、史料が書かれた時代を調べたり、書いた人の立場や宗教を考慮したり、同じ事柄について書かれた複数の史料を読み比べたりと、さまざまな手法で史料を分析する必要があるのだそうです。

 科学者が自然を観察して自然の中から何らかの法則を見出すように、過去の歴史的事件などをできるだけ客観的に、自分たちの主観を抜きにして明らかにしていくことこそが「歴史学」なのだと石濱先生。 「題材が過去の事柄というだけで、 アプローチ方法は『科学』と同じだと言ってよいかもしれませんね」。だから、自分の思想や主張を広めるために、都合のよい歴史だけをつなぎ合わせるようなことはしてはいけないし、そんなものは本当の歴史研究ではないときっぱり!

 さて、3年生の「歴史学演習I」のゼミでは、史料の探し方から先行研究の調べ方、ひとつの歴史的な事柄を多面的に検討する方法など、さまざまな基礎能力をみっちり養っていくそうです。 もちろん、「史料批判」についても具体的な史料を使って詳しく学んでいきます。 史料を読み説く基礎力を高めることで、4年生でクオリティの高い卒業論文を書くことが可能になるとのことです。

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この日のゼミは、順番にテキストを読んだり先生の質問に答えたりという内容で教室は比較的静かでしたが、ふだんはもっと賑やかなのだとか。「意見を持ち寄って発表するような回だと、みんなかなり活発ですよ(笑)」(3年・越前さん)。

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こちらは、4年生の卒業論文の資料。満州が植民地化されていた時代の教科書の内容が記されています。現地の日本人向けと中国人向けという2種類の教科書が作られていた当時、日本の地理や歴史はそれぞれどのように書かれていたのかを研究中です。

自分たちで歴史の「真実」に迫れる刺激的な学問

 ある日のゼミではマルコ・ポーロの『東方見聞録』の「ジパング」の章を検証していました。日本が Japan と呼ばれるようになったのは、このマルコ・ポーロの著作が元になっていることはよく知られています。ジパングの章を読むと、そこは屋根を金でふくほど金が豊富な国であること、香料がよくとれること、それだけでなく、人食いの習慣があることが触れられています。人食いや香料の産出は日本の説明としては違和感があり、もっと熱帯の国の記述のような気がします。

 石濱先生は『諸蕃志』(宋代の地誌)の「海上雑国」の晏陀蠻國の記述とマルコ・ポーロのジパングの記述を比較するよう促しました。「そっくりでしょう? そう、アンダマン海の島の文化が、なぜか日本の情報とまじったんですよ。重要なのはね、どうしてこういう混同が起きたのかを探ることです」。

 そして、当時の人が用いていた「イドリーシーの世界地図」を参照。地図上に「waq waq」と記載されているのが、倭国すなわち日本を表しているのだとか。ここで石濱先生は、地図から気づいたことは?とゼミ生たちに質問を投げかけます。「そう、日本はアフリカの東海岸あたりに位置する国として描かれています。つまり、この地図では東南アジアとアフリカの東の海がものすごく狭く描かれているのです。これが、アンダマン諸島と日本の情報が混同された大きな原因だと考えられます」。そうか、間違った記述にも意味があり、その理由を追求することによって当時の世界観までわかるわけですね。

 「マルコは中国からイタリアに戻り、泉州から海路で帰国しています。泉州はモンゴル軍が日本に向けて出軍した地の一つであり、南海貿易の拠点ですから、それなりに日本についての情報があったはずです。それでも日本の条の記述が混乱していることからも、マルコが実見していない地の情報の分析は慎重に行わねばなりません」(石濱先生)。

 古い史料を丁寧に見ていくことは簡単なことではありません。といっても、大変なばかりでもありません。もともと歴史好きが集まっているということを差し引いても、「石濱ゼミは楽しい」とゼミ生たちは口を揃えます。その理由は、「史料批判」によって史実に迫っていくというゼミの内容に加えて、実は石濱先生のお人柄なのだとか。「とてもユニークで明るくて、学生のことを常に考えていてくれます」(3年・丹治さん)。ズバッと本質に切り込む発言には、「ついていきたくなる先生です」(3年・越前さん)との声も。

 現在、国内外で起きている事件や紛争についても人によって言うことは違っていて、情報社会と言われていても私たちは必ずしもすべての事実を知っているとは限りません。そう考えると、ひとつの史料に書かれていることがすべて事実だと思い込んでいたことのほうが、不自然な気がしてきますね。「史料批判」などの手法を用いて、自分たちの手で過去の歴史の「真実」に迫れる「歴史学」は、実は非常に刺激的な学問なのではないでしょうか。

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「雲南行省はどの辺り?」。地理的な知識も、史実の正確な把握には欠かせません。

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2013年度のゼミ生たちの卒業記念バリ旅行の動画から。みんな明るく弾けまくっていますが、そこは真摯な石濱ゼミ。遊びだけでなく歴史遺産もじっくり見学しました。

Message

先生からのメッセージ

 
高校生にとっては、「歴史の勉強」は年号や名前の暗記が中心かもしれません。暗記ばかりで歴史はつまらないと思っている人もいるでしょう。でも、歴史を知ることには大きな意味があります。たとえば、隣国同士の揉め事だって、二国間の歴史的背景を知らなければ対処も交渉もできません。また、歴史を学んで、さまざまな文化や考え方を知り多様な価値観に触れることは、今世の中で求められているグローバルな人材になるためにも非常に重要です。歴史学って、社会に出てからも実はとても役に立つ学問なんですよ。

先輩からのメッセージ

3年・越前 亮平さん
3年・越前 亮平さん
高校時代から歴史が好きで、当時は知らない知識をどんどん取り入れることが面白かったんですが、今はその知識を土台にして深く考えていくという点に面白さを感じています。複数の史料にあたって、「事実」にアプローチしていく過程が好きですね。受験の情報はあまりに多すぎるので、何を信じればいいのか心が揺らぐこともあるかもしれません。でも、信じると決めたものを最後まで信じ抜くことが成功のカギだと思います。頑張ってください!

先輩からのメッセージ

3年・丹治 太郎さん
3年・丹治 太郎さん
石濱ゼミに入ったのは、2年生のときに取った先生の「外国史概説」がきっかけです。その授業で、初めて「史料批判」というものに接して興味を持ちました。誰がどんな立場で書いたのか、同じことを他の人はどう書いたのか、そんなことを意識して史料を読むというのはすごく新鮮でしたね。高校の歴史は暗記モノが多いですが、地理歴史専修に来れば自分の好きな分野をどんどん掘り下げて学べます。地歴専修も石濱ゼミも、 歴史好きにはオススメです!

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