早稲田大学 受験生応援サイト DISCOVER WASEDA

ゼミ紹介

Seminar

持続的な土地利用を可能にする人と環境の調和メカニズムを探究

mainImage

研究室DATA

平塚基志研究室
森林環境科学

 

Work

人口増加がもたらしたラオスの森林減少を抑制する

 「森林環境科学研究室」は2015年に設置された、まだ若い研究室だ。森林環境科学というと、森林が持つ水の涵養機能などを科学的に解明する「森林水文学」や、山地の保全や土砂災害を防止する技術を確立する「砂防学」など、いわゆる農学部系で学ぶ森林科学をイメージするかもしれない。

 けれども人間環境科学科にあるこの研究室の守備範囲はそれだけではない。「自然科学と社会科学の両側面から、森林生態系を対象にした研究を進めています」と平塚基志専任講師は語る。現在取り組んでいるテーマの一つが、ラオスにおける熱帯林の保全だ。ラオス北部の山岳地帯に暮らす人々は、1000年も昔から「焼畑移動耕作」という伝統的農法により生計を立ててきた。土壌栄養の少ない熱帯地域には適した農法だ。毎年2月になると熱帯林を伐採し、3月に火入れする。その灰が作物の肥料となる。また焼土は土壌改良の効果を生む。6月の雨期に作付けし、10月に収穫を終える。そして次の場所に移動し、およそ15年かけて最初の土地に帰ってくる。その頃には熱帯林はもとの姿に戻っているわけだ。だが、この調和していた人の営みと自然のサイクルが狂い始めた。

 主な原因は、人口の増加。ラオス北部の村々では、人が生きていくために土地の生産力を超えた農業生産を行うようになった。焼畑の面積は広がり、森林が再生しないうちに火入れするので土は痩せ、作物の収量も落ちる。そして、熱帯林は顕著に減少していった。どうすれば森林を保全しながら人々が暮らしていくことができるのか。土地利用における「人と環境の調和メカニズム」を構築しようと平塚は模索している。

人間活動の影響を含めた「統合アプローチ」の重要性

 まず、村落ごとに人口や世帯収入の構造などを聞き取り調査し、焼畑移動耕作への依存状況を民族別、男女別に比較してみた。その結果、民族に関係なくほぼすべての世帯が焼畑移動耕作に強く依存していることがわかった。ならば、それに代わる生計手段を導入できれば問題は解決する。森林の利用の仕方を少しずつ変えていくのだ。

 「まず村民全員に森林の減少によって何が起こっているか、例えば乾期に水が涸れるのをが早くなったなどの変化を知らせ、危機意識を共有してもらう。こちらも自然環境条件や地域特性、民族特性を理解し、彼らのケイパビリティー(潜在能力)を評価した上で、新しい生計手段の導入を考えていきます」と平塚。具体的には、豚や山羊などの家畜の飼育や高原野菜の栽培などを一つ一つ指導しながら試みているという。

 森林減少の問題解決には、自然科学の知見に加えて、社会科学の側面から人間活動を捉えたいわば「統合アプローチ」が不可欠だと平塚は指摘する。「天然林と違い、人の手によって維持・管理された二次林、里山に関しては、現在ほとんど研究対象にされていません。それは人の手、つまり人間活動の影響を自然科学的に評価するのが難しいからです。けれども森林の減少や劣化には、人の活動が少なからず影響している。したがって人の活動、影響を含めた上で、いかに森林を持続的に保全していくかを考えることは、極めて重要性が高いと思います」

 これこそが、人間環境科学科における森林環境科学研究室の特色と言えるだろう。学部3年のゼミでは、学生に社会科学系統の本も読ませる。テーマは環境問題をはじめ、地域と都市、ジェンダーにも及ぶ。なぜジェンダーが環境問題に関係するかを学生が発表し合い、理解を深めていく。

研究の成果を社会実装できる人材を輩出したい

 「人の手が入った森林」の研究は、国内では所沢キャンパス周辺をはじめ狭山丘陵、海外ではラオスやインドネシア、ミャンマーなどを研究対象地として取り組みを進め、調査結果や報告書は逐次、環境省に提出している。

 平塚はもともとこの研究室の前身にあたる人間科学部「環境生態学研究室」の出身だ。大手の総合シンクタンクで温暖化と森林の二酸化炭素吸収量、排出権取引、生物多様性などのテーマに取り組んだ後、希望して大学に戻ってきた。

 「シンクタンク時代から感じていたのですが、せっかく蓄積した研究成果が国内行政をはじめ、COPやパリ協定といった国際的な場で十分に活かされていません。だからこそ、社会政策に反映できるような社会実装能力を持った人が、ぜひこの研究室から育ってほしいと熱烈に思っています」

Message

平塚基志 准教授

 
2000年早稲田大学人間科学部人間基礎科学科卒業。2006年早稲田大学大学院人間科学研究科人間科学専攻(博士後期課程)修了。博士(人間科学)。三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)主任研究員を経て、2015年4月から早稲田大学人間科学学術院専任講師、2018年4月から現職。
Page
Top