「会計」の視点から、企業の経営問題を幅広く考える 現代管理会計論I B、II B(長谷川ゼミ)

会計学は、外部に報告するための「財務会計」と社内で経営に役立てるための「管理会計」の大きく2つに分かれていて、長谷川ゼミが研究しているのは「管理会計」です。計画からマーケティング、製造、販売といった企業の各部門やそれぞれの課題について、「会計」という視点から考察していきます。そして3年生はグループ研究で、また4年生は個人の卒業研究として、実際の企業や組織の事例を取り上げて、研究成果を論文にまとめることが目標です。
研究室DATA
長谷川 惠一 教授(商学部)
「現代管理会計論I B」「現代管理会計論II B」
所在地:早稲田キャンパス11号館
Work
「管理会計」とは、単なるお金の出し入れの話ではない!
みなさんは、「管理会計」という言葉から何を思い浮かべますか? 「管理」と「会計」だから「お金の出し入れの管理?」と思った人もいるかもしれません。もちろん、お金の出し入れも関わってはくるのですが、管理会計とは単にそれだけを指す言葉ではありません。実は、企業や組織の経営に関わる重要な話なのです。もう一つの会計学である「財務会計」との違いと共に、長谷川先生に教えていただきましょう。
「まず、『財務会計』とは株主や取引先など企業の外部の関係者に対して、『今期の売上はこれくらいで、利益はこれくらい、資産と負債はこうなっていますよ』というように財務状況を報告するためのものです。誰が見てもわかりやすく、かつ正確であるように、法律によってフォーマットなどが決まっています。
一方の『管理会計』は、経営者や従業員など企業の内部に向けたものです。もとになる数字は財務会計で扱うものと同じですが、目的は事後の報告ではありません。過去の数字を見ながら予算を作り、予算を達成するには何が必要なのかなどを検討していく、言わば企業の将来に役立てるためのものなのです」
管理会計の情報は、経理や財務に限らず企業のあらゆる部門で活用されます。「たとえば、ある商品がある地域では売れているのに別の地域では売れないとなれば、営業やマーケティングに関わってきます。また、製造や開発でも考えるべきことがあるかもしれません。さらに、今後その製品や分野に力を注ぐべきかどうかという企業の経営方針に関わる場合もあります」(長谷川先生)。
管理会計が、企業の経営になくてはならないものだということがわかってきたところで、長谷川ゼミでどんな研究活動をしているのかを見ていきましょう。 まず、 3年生はゼミに入るとすぐ、会社経営を疑似体験する「ビジネスゲーム」に参加します。「ゲーム」と名が付くように勝敗を競う楽しいイベントですが、実はこの体験とその後の授業での勝敗分析を通して、販売や開発などの経営に関わる行動と会計情報の関わりをしっかり理解できるのだそうです。

約1カ月半後の発表に向けて準備を進めている3年生のゼミ。各グループともテーマはほぼ固まっていて、どんな内容にするのか、どのように展開していくのかなど、それぞれ話し合いを重ねているところです。

卒論の構成や進め方についてはもちろん、参考文献の書き方など細かいところを丁寧に指導する長谷川先生。ゼミ中は厳しく指導しますが、普段の印象は「話の引き出しがたくさんあっていろいろ教えてくれるだけでなく、お茶目なところもあってとてもおもしろい先生です」(3年・酒井 春奈さん)。
「会計の目」で見て考えたことは、卒業後の仕事にも役立つ
後期に入ると、3年生は3~4名ずつに分かれてグループで研究を行います。「企業や組織を会計の目を通して見る」という基本を押さえていれば研究テーマは自由とのこと。今年の研究テーマを見ると、たとえば「売上予算とアルバイトのモチベーションの関係」や「日本酒の消費拡大に向けての戦略」など。アルバイトのやる気に売上予算が一体どのように関わってくるのか? タイトルを見るだけでも気になりますね。
このグループ研究の発表は、必ず他のゼミや他大学のゼミとの合同研究発表会という形で行われます。外部のゼミと切磋琢磨することで、プレゼン能力も研究の質も向上が期待できるのです。
「商学部には、当ゼミのほか清水ゼミ、伊藤ゼミという3つの管理会計のゼミがあり、年度末には合同で研究発表を行い、その成果を共同論文にまとめています。また、慶應義塾大学の管理会計ゼミとは、『管理会計ゼミ早慶戦』と名付けた合同発表会も毎年実施しています」(長谷川先生)。さらに、清水ゼミとは春と夏の年2回、合同で「強化合宿」もしているそうです。
さて、4年生になると今度は1年をかけて個人で卒業研究に取り組みます。こちらも、研究テーマは自身の関心と興味に基づいて、自由に設定して構いません。3年のときに研究したテーマをさらに深く掘り下げたいと、グループ研究をベースに卒業研究を進める学生もいるそうです。
具体的には、どんなテーマがあるのでしょうか。過去の卒論をのぞいてみると、「食品業界の流通―食品メーカーのこれから」「日本の温泉施設経営における戦略マネジメントについて」「オリエンタルランド社の経営戦略」と、特定の業界に目を向けたものや具体的な企業の戦略にフォーカスしたものなど、非常に幅広いことがわかります。
取材にうかがった日は8名が卒論の進行状況を発表。その中には「N響の財務諸表分析」というテーマで研究を進めているゼミ生も。「N響」とはNHK交響楽団のことで、従業員133名を抱え年間収入総額は30億円という公益財団法人です。会計のゼミでオーケストラ?と思ったら、「彼女は、ワセオケ(早稲田大学交響楽団)の団員です」と長谷川先生。「ワセオケに4年間在籍した経験があるからこそ、N響に注目したのでしょう。たとえば、非営利組織でも経営の効率性や健全な会計を考える必要はあるので、管理会計情報を活用することはやはり重要になります」。
1年間をかけて仕上げる卒業論文は、大学時代の研究の成果というだけに留まりません。なぜなら大学を卒業後、多くのゼミ生はさまざまな企業や組織にて勤務します。経理、営業、販売、企画、マーケティング、総務――どの部門で働くことになっても、大学時代に学んだ管理会計の考え方が、必ず役に立つからです。

4年生のゼミでは、毎回7~8人のゼミ生が自身の卒業論文の進捗状況を発表します。写真の真中さんの研究テーマは、「Jリーグにおける経営戦略」。前回の発表時に先生から受けたアドバイスも参考に、どのように変更・改善したのかについて説明していきます。

4年生のゼミ生が提出した「卒業論文執筆計画書」。ここには、研究テーマや概要、先行研究などについて記されていて、ゼミ生はこの計画に沿って卒業論文を進めていきます。最終提出は1月末ですが、12月中には一回提出して先生の指導・添削を受けることになっています。
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