お金の流れから会社・組織を動かす、人をまとめる、未来を描く長谷川ゼミ
会社をはじめとした組織が活動をするとき、必ずお金が必要になります。入ってくるお金より、使うお金が増えれば赤字になる。そうなると会社なら倒産してしまうし、病院や大学などの組織なら見直しを迫られるでしょう。このような収入と支出の両方のお金の流れを見ながら、経営や運営の進め方・マネジメントについて考える学問です。組織があれば、そこには必ずマネジメントが必要。今、日本で働いている人のうちかなりの割合の人がどこかの組織で仕事をしていますから、このゼミの内容は、実社会に直結している学問といえます。
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お金の計算で、未来像を示す?
長谷川ゼミは、管理会計論のゼミです。管理会計ときいて、どんな内容かすぐにわかる人はどれくらいいるでしょうか? 「管理」も「会計」もよく知っている言葉。どちらも固いイメージ。それがひとつになって「管理会計」となると...、ガッチガチのルールの中できっちりお金の計算をするような感じ? そのルールを勉強するゼミなのでしょうか?
「確かに、会計の中には、法律で決められたルールに従って計算しなければならないものもありますが、それは『財務会計』のほうですね。組織がどういう経営内容だったかをフォーマットどおりにまとめて、外部の人たちにもわかるようにする。これに対して『管理会計』は、これからの経営をどうしていくかを考えるときに使うもの。過去の結果ではなく、未来のためのものなんです」と長谷川先生がお話してくださいました。
会社や病院・大学といった組織にはたくさんの人が関わっています。ですから、会社経営や組織運営を進めていくためには、その活動の目標を決めて、関わっているみんながその方向に進めるように管理する必要があり、これをマネジメントといいます。管理会計とは、このマネジメントを、会計の面から考えること。お金の流れから、企業経営や組織運営を見ていくこと、なのだそうです。
「今後、どのような活動をしていくのか、お金の流れをふまえて計画を立て、そのとおりに会社や組織が進んでいくように仕向けるんです」。
なるほど、だから未来のための会計なんですね。
「うまくいかなかった場合は、その原因を調べて、よりよい経営になるように考える。それだけでなく、数字に出ないことも考えます。会社や組織が目標に向かって進んでいくために、どんな職場が働きやすいのか、どんな商品をどんなふうに売り出せばたくさんの人が買ってくれるのかなど、人の心の面からも考えることがマネジメントには必要です」。
管理会計って、人の心の動きも考えたり、将来のことをイメージしたりする会計。どうやら、帳簿の話だけではないみたいです。
お話をうかがった日は、商学部の卒業生で組織される「稲龍会」の設立25年記念大会の日。産業界で活躍されている稲龍会会員がズラリ。この日は、あの森喜朗元首相の講演も。もちろん卒業生だ。
長谷川ゼミだけの「体感ゲーム」!
そんな長谷川ゼミの様子がわかる例のひとつが「ビジネスゲーム」。3年生のはじめに3日間ほど教室を借り切ってゼミ生みんなでやるというそのゲームとは?
長谷川先生によれば、
「ひと言で言えば、『会社経営』を疑似体験するゲームです」とのこと。「材料を仕入れて、商品をつくって、それを売る。そういう会社の一連の活動をゲームを通して『体感』します」。
具体的には、ゼミ生が数チームに別れて、ステレオなどの音楽関連製品を扱う会社を経営するという設定で進められます。チームごとに、仕入れの量や、商品の生産量、どの商品に力を入れるのか、どんな広告方法にするのかなどを決め、多くのもうけ(利益)が出たチームが勝ち。さて、みなさんならどんな作戦を立てますか?
たくさんのお金がほしいなら、たくさん売ればいい? いえ、実はそんな簡単なことではないのです。なぜなら、このゲームでは、全体で売れる量が決まっているので、つくればつくるほど売れるというわけではありません。それに何より、商品をつくって売るという企業側の活動にもお金がかかります。お金をかけすぎれば、商品が少々売れたくらいじゃ「もうけ」が出ないのです。
実社会で言えば、高級ステレオを1台買った人は、しばらくの間それを大切に使うし、お手ごろ価格のポータブルプレーヤーだったとしても、何台も何台も買う人はそうそういません。社会全体でその商品が売れる数にはだいたいの目処というものがあるのです。そして、たくさん材料を仕入れたり、有名女優をたくさん使ったCMを流せば、それだけ材料費や広告費にお金がかかる。にもかかわらず、あまり売れなかったら、「割に合わない」ことになったり、ひどい場合は、「損をする」ことにもなります。
つまり、このビジネスゲームでは、限られたお客さんを各チームで取り合って、ちゃんともうけが出るように作戦を立てる必要があるのです。景気も変化するし、すごくいい作戦を立てても、同じ戦略のチームがあれば、お客さんを取り合って、共倒れになるかもしれません。
「やっているうちにどんどんおもしろくなるし、何よりやっぱり勝ちたくなるんです」と話してくれたのは4年生の天笠悠理さん。昨年、チームは見事に1位に。その勝因は? 「考えることが勝利への道。みんなで考えて、リスクを負う覚悟をして、新しい戦略に舵を切りました」。3年生の鈴木義教さんのチームも今年のゲームで1位だったそうですが、「僕らのときは、リスクのある挑戦を避けたのが勝因でした」。同じ1位でも、全く逆の判断をしていたというのも、ビジネスゲームならでは。実際に社会に出たときも、会社経営・組織運営のマネジメントに絶対的な正解はないってことですね。
社会には、今、さまざまな組織があります。業種はもちろん、関わっている人数も、活動している場所も違う。すると自ずと、目標とする成功の形もそれぞれ違って当然です。だから、マネジメントには方程式がない、常に世の中を見ながらその変化に弾力性を持って対応して、その組織の未来を想像し、人の心を動かす。お固いお金の勉強だろうかと想像しながらお邪魔したゼミでしたが、実際には、固さとはまったく逆の言葉ばかりが飛び出しました。経済大国・日本で、今、実は最もクリエイティブな分野といえるのかもしれません。
この日は稲龍会ということで特別に発表の時間をもらったゼミ生。実在する会社の経営システム改革を例にとりあげて、管理会計の役割を発表した。通常は、慶應義塾大学の管理会計のゼミと行う「早慶戦」や、学部内のゼミが集る「インターゼミ」などで研究発表する機会がある。
発表の後は、実社会での経験を積んだ大先輩から次々と質問が飛ぶ(みなさん有名企業の方々!)。発表を成功させるためには、質疑応答も重要なポイント。緊張の時間だ。「よく研究されていますね」とお褒めの言葉もあってホッとひと安心。
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岩崎 夏海著(ダイヤモンド社)