個性と秩序を生み出すメカニズムを発生から探る

発生は、たった一つの細胞が、ヒトでは数十兆個にも及ぶ細胞からなる個体をつくる、驚くべきシステムです。この過程では、少数の幹細胞が分裂と分化を繰り返しながら個性豊かな細胞を産生し、高い再現性をもって秩序だった組織を形成します。組織の中でもたとえば脳をつくる幹細胞は、時間や空間に対する感受性が高いことが知られていますが、時空間情報がどこで生み出され(コーディング)、どのように細胞のふるまいに変換されるのか(デコーディング)についてはよくわかっていません。花嶋研究室では脳や感覚器官をモデルシステムとして、時空間制御のメカニズムを分子、細胞、組織の多階層間で解析することで発生プログラムを担う新たな機構を探索し、その動作原理を明らかにすることを目指しています。
研究室DATA
花嶋かりな 教授(教育学部理学科 生物学専修)
ゼミデータ:発生生物学研究室
所在地:早稲田大学先端生命医科学研究センター (TWIns)
Work
脳をつくるプログラムを解読する
私たちの脳は多様な細胞からできていて、一つの細胞は多いときには千を超える他の細胞と接続することで膨大なネットワークを形成しています。しかしながら一見複雑に見えるこの脳を薄くスライスして顕微鏡下で観察してみると、実はきれいな法則性をもって並んでいて、6層の構造を視覚・聴覚・体性感覚等の機能ごとに区画分けしていることがわかります。そこで私たちの研究室では脳を構成する多様な細胞がどのように個性を獲得し、集団として脳の情報処理機能を担っていくのかを解析しています。
また現在地球上に生息する生物の行動特性は、進化という長い時間軸の中で遺伝子が少しずつ変化し、これらの遺伝子間の相互作用が修飾されることによって、新たな構造や機能が付加されたと考えられています。私たちの最近の研究により、脊椎動物の進化の過程で哺乳類特異的なシス調節領域のグローバルな変化により新たな機能が獲得されたことが明らかになってきました。そこで哺乳類モデルとしてのマウスに加えて非哺乳類動物モデルも用い、遺伝子のスワッピングや細胞移植、ライブイメージングなどを使って進化における発生プログラムの変遷を生みだす原理の解明にも挑んでいます。

研究室での蛍光顕微鏡を使った脳スライスイメージング(左)と分子生物学実験の様子(右)
個性と個性の相互作用から新しい発見へ
脳の細胞は個性豊かですが、実験を重ねていくと、このような細胞の多様性を生み出すプログラムはガチガチに固められているわけではなく、個々の細胞が周囲の状況を伺い、細胞同士で情報をやり取りしながらアイデンティティーを獲得していくことがわかってきたのです。もともと脳は環境を巧みに読み取って情報を処理する性質を持ち合わせているので、脳をつくる幹細胞も周囲の変化に敏感にできているのではないかと考え、細胞の個性を決めるのに重要な要素として遺伝子プログラム、細胞同士のコミュニケーション、外からの刺激に対する応答、の3つを私たちは考えています。
この3つの要素のうち、特に発生の早い段階では、遺伝子プログラムによってきっちり決められている場合が多いようですが、次第に脳の細胞ができていくうちに、この細胞はもう十分できたからつくるのはやめて次の細胞をつくろうとか、そうしたシグナルが幹細胞にはたらいていることが、最近の私たちの研究からわかってきました。このような実験の結果から、大脳皮質の細胞たちはお互いにコミュニケーションを取り合っているのは確かなのですが、コミュニケーションの分子実体や、情報を巧妙に読み取っていく仕組みについてはまだまだわからないことが多く、実験をしてみると予想に反した結果が出ることもしばしばあります。
実際このようなコミュニケーションは細胞レベルだけでなく、個体レベル、すなわち個々のヒトにも重要であると考え、研究室ではメンバーがそれぞれ自分の興味に基づいて実験を進めながらも、その過程でお互いの情報をシェアしあうことで、新しいアイデアが生み出されていきます。このような科学交流を研究室内だけでなく研究室間や大学間、さらには国を超えて推進しながら新たな発見につながっていくことを期待し、毎日試行錯誤しながら研究を楽しんでいます。

早稲田大学-DAADパートナーシッププログラムによるフライブルク大学との共同研究(TWInsで開催した合同セミナーの様子)
Recommend
このゼミを目指すキミに先生オススメの本
シマウマの縞 蝶の模様 エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源
ショーン・キャロル 著(光文社)