教育問題を解決する “ 知の体系” を構築する

研究室DATA
浅田匡研究室
教育実践学
Work
ボランティア活動で教育の現場を肌で感じる
人間情報科学科で教育工学系の領域を担っているのが浅田匡研究室だ。教育工学とは、教育現場における具体的な問題を解決し、教育の実践を変えていくためのHOW=知恵の体系を構築することがその目的だと浅田は言う。
「学校の先生はそれぞれが教育の現場で培ったHOW=知恵を持っています。それがどのようなプロセスを経て構築されていくのかを分析し、どうすれば誰もが共有し実践できるシステムをつくれるかを研究しています」
先生が持つHOWは単に教える技術だけで構成されているのではなく、その背景にさまざまな知識の集積があり、そうしたHOWをトータルに捉えていかないと「教える」「教わる」という教育の本質を明らかにできない。そうした観点から、浅田ゼミが教育プロセスを考える研究の一環として取り組んでいるのが「学生サポーター活動」だ。
浅田ゼミでは、3年生から修士課程2年生までのゼミ生全員が、所沢市内の小学校に出向くボランティア活動を行っている。ゼミ生たちが1年間、毎週木曜日に決められた学年に入り、朝8時から午後3時まで児童の宿題の採点や校外学習の引率など授業を間接的に補助する。また学校行事に際して、机の移動や掲示物の貼り替えなども受け持つ。
「多忙を極める小学校の先生に学生のマンパワーを提供することで、先生たちは空いた時間を授業の準備や個別指導に充てることができるようになります」
一方、これまで「教わる立場」しか知らなかった学生にとって、この活動は教師の「教える立場」や、「学校を運営する立場」、さらに「保護者との関係」など、さまざまな角度から教育の現場を肌で感じる絶好の機会になる。「先生や学生双方にとって有意義な学びとなるような活動を目指しています」と浅田は強調する。
浅田ゼミと先生たちが話し合い、児童の自律性を育てる目的で「チャレンジタイム」という自主学習の時間も導入された。これは先生が作成した課題プリントに児童が自主的に取り組むもので、学生たちは児童の自己採点をチェックしたりプリントの印刷などの補助作業を担当する。この取り組みにより、実際に児童の学力向上効果も現れたという。
学生サポーター活動も今年で8年目。小学校との信頼関係も深まり、「学習障害のある子どもたちに対する授業の進め方」などゼミ生とクラス担任が協働した研究活動も行われている。また、教師を目指していたゼミ生の一人はボランティア活動を経験したことで、教師になるのではなく、新たな学びのツールを開発し、多くの先生たちを支える側になりたいと考えるようになったという。
知の体系を記録する机上授業シミュレーション
これまで個々の先生が持つ「HOWの体系」の全体を捉えるために、ビデオによる授業風景の分析やインタビューといった方法が行われてきたが、それだけでは不十分だと考える浅田は、新たなアプローチに取り組み始めている。
「教師のような人間を対象とした専門職には、こうすればいいというマニュアルは存在しません。それぞれの生徒によって異なる反応が返ってくるからです」
授業で児童から予想外の反応が返ってきた時に、新たな思考のプロセスが生まれ、そこから新しいHOWが獲得されていく。そこで浅田は研究の第一段階として、意図的にそうしたシチュエーションをつくり、先生たちにロールプレイを行ってもらう試みを始めている。浅田たちは、これを「机上授業シミュレーション」と呼んでいる。3Dプリンターで先生や生徒の人形をつくり、それを教室に見立てたスペースに並べながら先生にロールプレイを行ってもらうのだ。
「実際の授業を途中で止めることはできませんが、この方法なら先生が具体的に何を考えてどう行動したか、その時に児童たちがどんな反応をしたかといったことが第三者にもよく理解できるようになります」。実際の授業の2~3倍の時間をかけて行い、記録にとって分析を進めているという。
「この方法も、ゼミの活動がベースにあったからこそ発想できたものです。人間というのは今ここで生きている存在ですから、科学といっても現実と乖離したところで研究して頭でわかったつもりでも、現実の問題解決には寄与できない。実際に体験した“身体化した知”でなければ、本当の知の体系は生み出せないと思っています」