身近なことばや文字の使われ方から浮かび上がる人間と社会を考察する

日本のことばやそれを文字で書き表す表記には、多くの謎があります。
身近だけれど見過ごされがちなこれらの謎を、一つでも多く解明しようと研究しています。
「寿司」と「鮨」は音で聞くと同じですが、文字で見ると、「寿司」からは回転ずしなど庶民的なすしを、「鮨」からはカウンターで食べるような高級なすしをイメージする人が多いのです。
また、選挙の候補者名についてアンケートをとると、漢字とかなが交じる名前の表記が最も支持を集めました。
つまり「笹原宏之」や「ささはらひろゆき」より「笹原ひろゆき」の方が真面目さと親しみやすさのバランスが良い人物だと思えて投票したくなるそうです。
このように文字・表記には、読む人の印象や思考を方向づける働きがあり、この感覚を「表記感」と呼びます。
他の言語にはまず見られない日本語特有の現象です。
人々が実際にどのようにことばや文字を使っているのかを丹念に「観察」し、集めた素材をもとに「考察」する。
これが調査研究の基本です。
ことばや文字は、政治や経済、ビジネス、法律そして文芸、歴史などあらゆる分野の根本を成しています。
各分野との関わりを踏まえて考察と内省を深め、心を持つ人の織りなす社会の真相に迫るという、社会科学部としての日本語学のアプローチを続けています。
ことばや文字を「正しく使わなければ」という意識に縛られすぎている人が多いようです。
そうした価値観も大事ですが、いったん解体し、問い直す経験ができるのが大学です。
「こうでなければ」という抑圧から解放され、皆がより適切にことばや文字を使えるようになることで世の中を幸せにしたい。
そんな思いで私自身も研究を続け、教場のほか審議会やメディアなどで発信を続けています。