古今東西の大衆文学を学際的に研究する楽しみ

伝統的な国文学研究は、作品の解釈を出発点に、当時の社会状況や作家自身の背景研究へと進みます。
一方で、近年の文学研究は学際的な視点を重視し、社会学、人文地理学、民俗学、歴史学など、幅広い分野の枠組みの中で、文学が果たしてきた役割を物語構造から読み解こうとする試みが主流になっています。
また、漫画やアニメ、映画など他メディアへ物語が広がる過程で、どのように変容していくかを探る研究も重要な位置を占めています。
私が研究対象にしている江戸川乱歩は、こうした幅広い文学研究を考える上で非常に興味深い作家です。
大正12年にデビューした乱歩は、日本に探偵小説というジャンルを確立し、その作品は現代のポップカルチャーにも受け継がれています。
なぜ彼が探偵小説を日本で根付かせることができたのか、また、作品が現在に至るまで息の長い魅力を保っている理由はどこにあるのか―その答えを探ることは、尽きることのない興味を私にもたらします。
現在、大衆文学作家が遺した一次資料、具体的には生原稿や書簡、日記などをデジタル化する作業を進めています。
2021年、三重県鳥羽市の江戸川乱歩館の火災で多くの資料が消失したことで、資料の早期データ化の重要性が高まりました。
ただし、膨大な資料量を前に人手に頼らざるを得ない部分も多く、適切に資料を扱える研究者の育成も急務となっています。
実際、大衆文学が学問として扱われるようになったのは比較的最近のことです。
文学を「時代を映す言葉の一形態」として捉え、古今東西の文化全体を見渡しながら研究する姿勢は、文化構想学部に適しています。
文学研究がやがて文学を超えた領域に行き着いたとしても、それを肯定する柔軟さこそが、この学部の最大の魅力だと考えます。